第293話 各国の思惑

「村を作る場所が……聖剣誕生の地?」


 ──冗談だろ?


 そんな重要な土地を、なんで見ず知らずの俺に託し、自分達が忌み嫌ってる混血の村を作ることを了承したんだ……。


 いくら俺が勇者の孫だと言っても、可笑しすぎないか?


「うん。正直なところ、各国があそこを手放したことには私も驚いているんだ。まあ、陛下の意向であの領土が渡された以上、他国にも体裁というものがあるんだろうね」


 同等の価値って……普通に考えれば、歴史的にも重要な価値があるはずなのに。


「えっと、でも言わずとも大切な土地ですよね? 裏があるとしか……」


 ソインさんは腕を組み、何やら考える素振りを見せた。


「……グローリアに怪しい動きがある、と聞いている。これは憶測になるんだけど、その監理かんりも任せようとしてるんじゃないかな。勇者の孫である君に、ね。何故かうちとエルフの国からの信用は厚いんだろう?」


 裏、ありありじゃないか!? 


 トゥナの親父さんもキサラギさんも、本当に食えない人達だ……。


「兄さんやられたな? 考えても見たら、停戦中の戦争が再開したら、真っ先に飛び火する場所やしな」


 そういう意味でも、何処かに肩入れしないようにあの場所って事か……。


「ま、まぁ、あの場合どちらにしても選択肢はなかったよ。それに、新しい村は端から守って行くつもりだったし……」


 正直強がりだけど、嘘は言ってない。


 混血の人達は、今まで皆辛い思いばかりしてきた筈だ……いい加減、幸せになっても良いだろ?

 

 それがトゥナやティアの悲願でもあるわけだし。


「君たちはすべての国に属し、すべての国に属さないことになる。今後の村の動きは監視されるだろう。まあ、そういう意味では、勇者の孫も聖剣誕生の地、その両方が同時に監視できるようになるのだから、都合がいいのかも知れないね」


 監視──そうか!


 考え過ぎかもしてないけど、だから厄介者扱いしていた混血達の村を、わざわざその場所に。

 一ヶ所に居てくれれば、三ヵ国とも監視がしやすいからな……。


「くれぐれも変な気は起こさないこと。……まあ、君にそんな心配は無用だろうけどね」


 その気はないにしろ、謀反なんて起こそうものなら袋叩きに合うわけか……。


「なんか……一気に不安になって来ました」


「各国にも色んな思惑はあると思う。けどまあ、変に気負うようなこともないさ」


 って今さらだけど、これってバッチリ外交問題に巻き込まれてるじゃないか……。


 まぁ、争い事を一役買ってくれ……っとかじゃないから良いけどさ。


「そうですよカナデさん。逆に言えば、何処の国に肩入れしなければ、他の二国が守ってくれるってことですよ」


 なるほど、そうだよな。

 シバ君の言う通り悪いことばかりではない筈だ。

 やっと手にいれた定住できる土地、楽しまないと損だよな?


「色々悩むと胃が痛くなるからな……前向きに考えようか。じゃ、食事の続きでも……」


「──兄さん……それに関してはもう手遅れや」


 ……嘘、だろ?


 話に夢中で完全に目を離していた……そう言うまでもない。

 

 ミコにより──鍋は占拠されていたのだ!!


「ミ、ミコ!? 大盛りとは言ったけど、鍋ごと平らげるなよ!!」


 結局のところ、俺はミコから食事を守る事は出来なかった……。

 その後俺は、ルーム達から監督責任を問われ、食事作りの担当者におかわりを頂くため、頭を下げに行ったのだった。

 

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