第291話 威厳キラー
「──あと数匹だ、私が突撃する! 皆は槍を構え、警戒を怠るな!?」
切り立つ山々に囲まれた山道。
キャラバンは無数の猿の魔物に襲われ、今撃退が終わろうとしていた。
前方からは、ソインさんの勇ましい声が山に反響し、木霊していた。
そしてその後、程なくして魔物の絶命する声が響き渡った……。
「──討伐完了だ! 各自、状況報告を伝令係に伝えたし!」
何とか、無事に戦闘が終わったようだ。
俺はと言うと、ミコとルーム、ユニコーン達などの非戦闘員を守ってた訳でして。
だから二人と二頭、そんな冷ややかな目で見るのは止めて貰おうか?
「これは参りましたね……」
前方から、伝令係と呼ばれたであろう女性が歩いてきた。
どうやら、何か頭を抱えているように見えるけど……。
「どうしたんですか? 何か問題でも」
「あ、カナデさん……すみません、先程の魔物の襲撃で、驚いた馬が一頭、足を怪我したようで」
いや、全然無事じゃ無いじゃないか!?
「馬の怪我って、もしかして……安楽死させるとか?」
聞いたことがある。
馬は足に骨折のような大きな怪我をした場合、自分の体重を他の足で支えることになり更に他の足も痛める事があると……。
場合によっては、その怪我の痛みでショック死することもあるとか……。
だから地球では、安楽死をさせることもあるらしいけど。
「いえ。一応馬用のポーションがあるので。ただ今すぐ完治するわけではないので、馬車を引かせるには……」
馬用ポーション!? そんなのがあるのかよ……。
なるほど、確かに完治していないのに馬車を引かせる訳にはいかないよな?
人は乗り合わせれば問題無いけど、リベラティオから運んできた貴重な物資だからな……。
「それにしても困りましたね……」
本当困ったぞ。
流石に予備の馬を連れてきては居ないし、人が引いていくじゃ馬力が足りない。
上手い手は無いだろうか?
「──ってそうだ! うちのユニコーン達なら二頭立ての馬車なら一頭でも引けるんじゃないか?」
「そ、その馬、ユニコーンなんですか!?」
そうか、まだハーモニーのカモフラージュが効いて……。
俺は振り返り、オスコーンとメスコーンを見た。
しかし目があった瞬間、まるで聞こえなかったとでも言うかのように顔をそらす二頭。
「こいつら……」
露骨に視線をそらしやがって。
離ればなれにされて、イチャイチャ出来ないのがそんなに嫌か?
「──ふっふっふ。ここはボクの番カナ!」
「あぁ……頼むよ。今晩の晩御飯を楽しみにしてくれ、大盛りだ」
俺の目の前で浮かび、腕を組ながらふんぞり返るミコ。
息を荒げ「くるしゅうないカナ!」っと無事交渉も済んだ。
「じゃぁ早速あいつらの通訳頼むよ」
「任せるカナ!」っとミコはユニコーン達の元へと飛んでいく……。
お、早速話しているようだ……戻ってきた──。
「オスコーンは『カナデ、お前上手いこと言って俺とハニーの仲を裂くのが目的だろ!?』って言ってるカナ」
いやいや、そんな気は毛頭ない……ってかどうでもいいし。
「それでメスコーンは『う~んまぁ、そうなのカナデちゃん! 自分が恋仲の相手と別れたからって妬き持ちを妬いてるのね!?』って言ってるシ」
「──べ、別に妬いてねぇし!」
それに別れたんじゃない……別れ離れになったが正解だろ!?
「なるほど。カナデさんは傷心中、チャンスあり……っと」
「──って伝令係の人!? それは誰にも伝えなくていいから!!」
ってマジでメモしてるぞこの人。
彼女に情報が知れ渡るのは不味い気がする……。
交渉を早く済ませねば、皆の期待を、勇者の孫としてのイメージを壊しかねないぞ!
よし……俺が直接!?
「そうだオスコーン、メスコーン。お前達、マイホームなんて欲しくないか? 皆に何とか頼むからさ……協力してくれよ……」
二頭っきりのマイホーム、どうだ魅力的な提案だろ?
流石の二頭も、感心持たざるをえないって感じだな。
「カナデ、やってくれるみたいカナ」
「そうかそうか。分かってくれて何よりだ!」
ふっふっふ、狙い通り!
俺の交渉術も、ずいぶん板についてきたんじゃないだろうか?
「──カナデさんって、いつもこんな感じで? ヒエラルキー低すぎませんかね」
「そやな。大体いつもこんなんやで?」
え~……
まぁいいか、これで問題は解決したわけだし──。
「う、うちのユニコーンがやる気を出したようですし、そのようにお伝えください」
「はい、なんとかなって良かったです──それではこれで!?」
伝令係の女性は、挨拶だけ済ませると走ってその場を去っていく。
「ちょっと──お姉さん! ここであったことは内密……」
仕事もあるし、追いかけてまで引き留めるわけにはいかないよな……。
「あれは間違いなく言いふらす気やな」
ですよね~……。
早くもリーダーとしての威厳を失ってしまうのか、俺は……むしろ数日間良くもった方か。
「まぁ、あんま気張らんほうがええんやないか」
そう言ったルームは、俺の背中をポンポンと叩く。
ある意味、
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