第289話 弟子志願

「えっと……ごめん、良く聞こえなかった。今なんて?」


 シバと名乗った少年は、熱い眼差しを俺に向けている


 聞き間違いでなければ弟子……って聞こえたが、まさかそんなに歳も変わらないのに弟子になりたいだなんて──。


「ぼ、僕をカナデさんの弟子にしてほしいのです! よろしくお願いします!!」


 ──やっぱり言ってたのか!?


 弟子なんて取れる程、俺は立派な人間じゃないぞ? 

 でも彼は真剣みたいだし……それが開拓のモチベーションにも繋がるだろう、頭ごなしに拒否するのは不味いよな?


「え~っと……どうして俺の弟子になりたいんだ?」


 理由を聞こう、そうすれば断る理由も何かあるかもしれない。


「昨日のワイバーンの撃退素晴らしかったです! 知っての通りハーフは多くの者に虐げられて……だから僕もあんな力が欲しい! いざという時、皆を守る事が出来る力が!!」


 弟子って、鍛冶の方じゃなくやっぱり剣の方か。


 う~ん、志は立派に聞こえるけど……。


 困ったな。きっと彼は、同胞を守ることが出来れば迷わず剣を振るだろう。


「あ~でも、あれはミコ……武器精霊様が居てくれたからであって、努力して何とか出来るものでもないんだけど」


「いえそれだけではありません! あの跳躍力、武器を抜いたのも目で追えませんでした。それはカナデさんの力なんですよね!?」


 ……引き下がる気はなさそうだ。

 良い子だとは思うけど、それでも──。


「一先ず朝食を取りに行こう、返事はまた今度するよ」


 そう言ってシバの肩を叩くと、俺は逃げるようにその場を後にした。


「あ、カナデさん!?」


 めげずに着いてくる……か?

 どうしたものか。やっぱり人を殺す術を教えるのは、人生経験の少ない俺には荷が重いよ。


「──カナデ、なんで弟子にしてあげないのカナ?」


「なんだミコ、起きてたのか?」


「あんなに動かれたら、寝れるものも寝れないかな!? 危うくバックの中で昨日食べたものを出し……っそれは今は良いカナ!?」


 いや、良くないだろ!!

 そのバック、いったい誰が洗うと思ってるんだよ……。


「はぁ。何て言うか、この世界じゃ殺し殺されが普通だからさ? 帯刀の剣術が、無用な命を奪うのはちょっとな……」


 シンシを斬った時を思い出す。


 あの時の事を思い浮かべるだけで、胸が締め付けられる気持ちになる。

 俺が教えた剣術で、誰かがそんな気分をするのはゴメンだな……。


「ん~でも、後ろ着いてきてるカナ?」


「あぁ……分かってるよ」


 振り向くと、シバと目があった。

 彼が感じている想いは、きっ今の俺と大差がないだろう。

 だからその気持ちも十分に理解出きるのだが──。


「いい返事が聞けるまで、僕諦めませんから!」


 シバは、俺の後を離れずピッタリと着いてくる……。


 はぁ……弟子にするとして彼の心が傷付いた時、そんな彼の心を救う事が出来るのだろうか?

 自分の事で手一杯なのに? 無理だよな。


 その後朝食を取り、出発の準備を行うなかも、シバは俺から片時も離れようとはしなかった。


 俺はそんな彼の熱烈なアプローチに、頭を悩ませるのであった……。




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