第287話 成長

「お前に恨みは無いが──誰にも手を出させはしない!!」


 あまり近付かれると、過去にも受けた例の風圧にやられる。

 しか今はあの時とは違う──急降下中なら、おいそれとそれも出来まい!?


「──灯心とうしん


 ミコが俺の魔力を吸い上げ、無銘が納められている鞘が光を帯びる。


 ワイバーンの急降下に合わせ、跳躍を試みた。

 狙いはただ、一点のみ!!


 空中で体を横に捻りながらも、技名と共に刃を引き抜く。


直刃すぐは!!」


 抜刀と共に、無銘の刀身から光が放たれた。

 空に巨大な光の三日月を描き、その光は二十メートル程先に居るワイバーンまで届いた。


 その後、敵に背を向けるよう地上に着地すると、ワイバーンは俺を襲うこと無く、頭上を通過していく……そして。


 ──ドンッ!?


 っと、大きな落下音が響いたのだ。

 巨大な肉体は激しく地面に激突し、落下の勢いで地面を削り土煙を上る。


「──どうだ……まだやるか?」


 対峙していたワイバーンは落下による強い衝撃を受けたものの、必死で傷付いた体を起こしたのだ。──相変わらず竜はタフだな……かなりの痛みな筈なのに、その生きようとする本能、見事なものだ。


 しかし、もう奴は満足には戦えないだろう。

 先ほどの一閃でバランスを取るに使われる尾を、三分の二程の長さに焼き切ったのだから……。


「次はない──さっさと失せろ!!」


 俺の声を聞いたワイバーンは、怯え、慌てるかのように翼を広げ、何とかバランスを保ちながらも宙へ飛び上がる。


 そして脇目を振らず、空の先へと消えていったのだ……。


「よし、逃げてくれたな。よかった……」


 あんな大技、二度も使えば魔力が切れるからな……向かってきたらもう、殺すしか無かったよ。


 俺はその場で無銘をくうで二度振り、鞘に刃をゆっくりと納める。


「ふぅ……ミコ、お疲れさん」


『お疲れだシ、一仕事の後は甘いものカナ!!』


「大丈夫、忘れてないよ」


 俺達に負傷者は居なく、ワイバーンの命を奪うこともなかった。

 最善の結果じゃないだろうか?


「──おい、ルーム。この尻尾だけで勘弁してくれ、後の解体は任せたぞ」


 ルームはさっそく、巨大な尻尾めがけ走り出す……血が滴る尾に駆け寄るチビッ子、絵的に嫌だな。


「後の処理は任せて、俺はミコにココア入れ直そうか?」


 飲食の事で嘘をつけば、きっとミコに魔力を吸い付くされる……それは勘弁願いたい。


 それにしても、俺も随分強くなったんじゃないか?

 前は幼体相手に苦戦したのに、成体のワイバーンを殺さず追い返せたんだからな。


 そんな事を考えながら火を使うべく、元居た馬車の近くの休憩ポイントへと向かう。

 するとそこには、武器や盾をもった仲間達が、その場にボーッと立ち尽くしていた。


「あぁーおほん! ……危機は去ったから、改めて休憩してくれよ。まだ先は長いんだろ?」


 声を皆にかけると、先ほど座っていた場所に「よっこいしょ」っと腰をかける。──少しばかり気張りすぎたかな、疲れた疲れた。馴れないことはするものじゃないな。


 状況を飲み込み始めたのだろう。

 周りからは、次第に──「す、すげぇー!」「流石勇者のお孫さんだ!!」「カナデさん、格好いいぜ!」などの声が上がる。


 そして俺は、ココアを作りながらも群がってくる新たな仲間達に、色々質問攻めに合うのであった……。

 

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