第286話 因縁?

「ワイバーンだと!?」


 ソインさんは慌てて立ち上がり、声がした方の空を見つめる。

 そして大声をあげ、周囲の仲間たちに指示をした。


「皆、落ち着いて一か所に集まるんだ! 孤立すればいい獲物となることと知れ! 奴の外皮は厚い。矢は通らん……長物を手に取り臨戦態勢を取れ!」


 っと。


 皆に緊張感が走る。

 仲間達からは「もう終わりだ」「夢半ばで死ぬのか」「命をしても……悲願のために!」などの諦めた声が聞こえる。


 それもそのはず、ワイバーンの討伐には本来何十人もの兵が居て始めて対抗できる相手……ってティアが言ってたからな。

 そう言うものなのだろう。──うん、懐かしい。


 俺は残っているココアを飲み干した。


「ごちそうさま。それにしても、二度目のワイバーンか……何か因縁でもあるのかね」


「よっこいしょ!」っと立ち上がり、ミコを掴み、持ち上げた。


 ココアのカップを掴み、必死の抵抗を見せた彼女を、無理矢理にだ。


「後でまた入れてやるから……今は協力して皆を守るぞ」


「絶対カナ! 絶対おかわりくれるカナ!?」


 こっちはこっちで、ミコに謎の緊張感が走る。

 ここまでの執念、ある意味清々しいな……まったく、こいつと来たら──。


 俺はワイバーンの様子を見据えた。

 上空高くで停滞してる?

 ホバリングでこっちを様子見と言うところか。


 こちらも警戒したのが早かったからな。

 ばか正直に突っ込んでこない所を見ると、本当に賢いようだ。


「ミコ……無銘に」


「仕方ないカナ」


 俺はミコに無銘に入ってもらい、キャラバンのメンバー達から距離を取るように歩いて離れる──。


「「カナデさん!?」」


 無防備に群れから出ていく俺を見て、仲間達は驚きの声を上げる。


 なるべく抜きたくはないが、今回は言っても居られない──守るために抜く!!


「──カ、カナデ君、危ない下がるんだ!」


 ソインさんの止める声がする。

 しかし俺は手をヒラヒラとさせ、こう答えた──。


「大丈夫です、俺が追っ払って来ますのでそのまま警戒していてください」っと。


 ワイバーンとの戦闘……前はあんなに不安だったんだけどな?

 危機感がまったくない訳じゃないけど、今なら負ける気がしない。


「──兄さん兄さん!?」


「ん? ルーム心配しなくても大丈夫だから。安心して俺にまかせ……」


「──ちゃうわ、心配とあらへん! ウチあれ欲しいねん、あれ!?」


 ルームは「あれやあれ!」っと、ピョンピョン跳ねながらワイバーンを指差している。


「──取りません!! 出来れば追い返しますー!?」


 つい食いぎみにツッコミを入れてしまった……ったく、ルームのやつ何を考えて。


 って、キャラバンの皆が呆れた表情を!?

 格好つけたのに、全然格好つかないじゃないか。


「はぁ、普通……あそこは心配する流れだろ? 恥かいちゃったじゃないか」


 じいちゃんの顔にあまり泥も濡れないな。

 ここは……決めてやる!!


「ミコ、いつでも行けるな?」


『がってん承知カナ!』


 ワイバーンは、群れからはぐれた姿を見て、狙い通り俺を標的としたようだ。

 空中でぐるっと一週弧を描く──。


「来る!?」


 ──そして勢いをつけ、こちらに向かい急降下をを見せたのだ。


 無銘に触れ、抜刀の構えを取る。


「──前と同じと……思うな!?」


 俺は誰に言うわけでもなく声を上げ、助走をつけるため走り出した。

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