第285話 ココアとミコと腹筋と

「カナデくん探したぞ。こんなところにいたんだね」


 リベラティオを立ち、早半日ほど。


 俺達のキャラバンは、十台近くの馬車が一列縦隊になり、目的の領地まで歩みを進めていた。

 ちなみに道がわからない俺は、迷子にならないようキャラバンのほぼ中央に居る。


 そして皆で、馬車馬を休めるため休憩を取っていると、最前列の方からソインさんが歩いてきたのだ。


「はい。ソインさんは確か、護衛のため先頭の馬車に乗っていたんですね、お疲れ様です」


 淹れたてのココアを、彼女の差し出す。

 リベラティオは中立国だけあり、古今東西の食料が市場に並んでいた。


 マジックバックの日持ち効果もある、食材の種類が増えるのは大歓迎だ。

 開拓生活でも、しばらくは食に困らず作業できるのは大きなポイントだ。


「カナデ、ボクも欲しいかな!」


 皆が俺の立場を知っているため、ミコを隠す必要もなくなり今は外に出している。


「分かった分かった、今いれてやるから」


 それがよっぽど嬉しいのか、今日のミコは凄く良い子だ。

 盗み食いをしないいし、他にも盗み食いをしないいし……あれ?


「そうだルーム。紹介がまだだったよな? 彼女がリベラティオ王が言ってた騎士団長の……」


「──大丈夫や、知ってるで。城内で挨拶済ませてるわ」


 そう言えば、トゥナの所に顔を出したって言ってたもんな?

 きっとその時に挨拶も済ませたのだろう。


「なら大丈夫か。ほらミコ、出来たぞ。熱いから気を付けろよ?」


「やったかな!?」

 

 人様のカップをその場に置くと、ミコはその中に顔を突っ込む。

 うむ、これで少しの間はミコも静かになるはず。

 やっぱりココアはいいな。不思議と心まで温まる気がする。


 カップに口をつけ、自分の分のココアを堪能する……堪能しているのだが。


「それにしても……」


 ダメだ、流そうと思ったけどこの存在感は見過ごせない。

 何とか遠回しに話題を振ろう……なに、大丈夫。

 あれはどう考えても見せているはずだ!


「ソインさん、その格好冷えませんか? 後、女性に言うのも失礼かもですが……見事な腹筋ですね」


 ビギニアーマーっとで言うのだろうか。

 俺が国の王なら言うぞ──騎士団長よ、そんな装備で大丈夫か? って。


 それにしてもなるほど。

 この筋肉、パーティー会場で腕を組んだとき、通りで違和感があったわけだ……。

 ただ鍛練しているだけでは、この様な筋肉付き方はしないはずだよな。


「多少冷えるくらいは気にしないさ。これはとても動きやすいからね。……しかし、君には私の筋肉の美しさが分かるのかい?」


「はっはっは……立派ですよね。見てるだけで、知り合いを思い出しそうです」


 筋肉の良さは分からないけどな?

 筋肉と言う単語が出る度、目を輝かせる我らが護衛の騎士団長。

 うん、言うまでもない。この人、筋肉フェチだ。


「ほう。この筋肉を見て思い出す友人がいると。その方とは是非、筋肉道について語り合いたいものだね」


 ……やっぱりか。薄々気付いてたけど、この人まともに見えて実は残念なタイプだったか。

 この世界、まともな人の方が少ないんじゃないか?

 そもそも筋肉道ってなんだよ、はじめて聞いたぞ……。


「──ワイバーンだ! ワイバーン現れたぞ!?」


 キャラバンの前の方からだ!! ──ったく、せっかくのティータイムなのに。

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