第280話 騎士団長

「トゥナ……泣いてたな──」


 トゥナと剣を交えた後、彼女はルームにより部屋へと送られた。

 俺も、彼女に一緒に着いていきたかったのだが──


「──ここはお姉さんであるウチに任せとき。泣かした所を王様でも見られてみ、兄さん首飛ぶで?」


 っとルームに言われ、情けなくも背中を見送ることしか出来なかった。

 なのでミコと二人で、すごすごと自室へと戻ったのだが……。

 

『──カナデ、どうしてワザと負けなかったのかな? そしたら、トゥナンと一緒に居る理由が出来たシ』


 今さら何を、トゥナの体を思えば無理に決まってるだろ? これが最善の選択なんだよ。

 それに手を抜いたら抜いたで、そんなの……トゥナが心から喜ぶはずがないからな。


『……ボクには分からないかな。出来ることなら、離ればなれは嫌だシ』


 ミコが言いたいことは分かる。

 俺も決して別れたい訳じゃない。

 ……ただゼロから住むところを作る。

 それは周りが思っているほど楽なことでは無い。

 何かを作ることにたずさわっていた俺は、それをよく知っている。


“もし初めから村が存在していたら……”


 それなら俺も、考え方を少しは変えていたのかも知れないな。


 悩んでいても仕方がない事に思考を巡らせていると、部屋の扉が何度か叩かれた──。

 

「はい、どうぞ」


 来客だろうか。ルーム? もしかしてトゥナか!?

 俺は立ち上がり扉に向かい歩き出す、すると目の前で扉は開き──そこには金髪を後ろで縛った、凛々しい目付きの女性が立っていたのだ。


「──失礼する」


 その女性は顔を会わせるなり、まじまじと……それこそ、品定めをするかのように、俺を見つめた。


「えっと、どちら様で?」


「あぁ、ごめんよ。リヴェラティオの騎士団長を務めている、ソインと言う者だ。よろしく」


「あー貴方が、こちらこそよろしくお願いします。その騎士団長さんが、どういったご用件で?」


「この後、君たちの歓迎パーティーをすると言う話でね。連絡ついでに、噂の勇者様と対面しておこうと思ったんだ」


 噂のって……なんか尾ひれがついてたり、誤解されたりしてないか?


「勇者じゃなくて、その孫ですけどね。別になにも面白く無いですよ、何処にでもいる、普通の青少年です」


 先程までの鋭い顔つきが一変、表情は優しいものへと変わる──ってよりは、どこかニヤケて……。


「そうかい? いやなに、あのお転婆姫──あぁいや、フォルトゥナ様がひどくご執心みたいだったから。さっきも部屋に寄ったら、別れたくないって……せっかくの可愛い顔も見れたものじゃなくてね」


「うっ……トゥナの様子は」


「さて? 幼い頃から知っているけど、あんな姿は私も初めて見るんだ。いや、それにしても、あのが随分と変わったものだよ」


 やっぱり……泣いてるよな?

 今さらだけど、もっとやり方があったかもしれない。お互いが心から納得できるまで話し合うとかさ。


 トゥナ……大丈夫かな?


「心配は要らないさ。アレは強いよ。それは、君だってよく知っているんだろう?」


 どうやら、俺の表情を見て察したのだろう。

 ソインは俺の肩をポンポンと叩き、慰めの言葉を掛ける。


「はい……そうですね。彼女は強いです、勇者の孫よりも……よっぽど」


 そうだよ、先程トゥナも納得してくれたじゃないか。

 本当は彼女じゃなく、俺が寂しいだけなのかもな……。


「……では、必要なものは後ほど侍女に用意させる。また会場の方で会おう」


 扉をが閉じようとしてる中、それはもう一度開けられた──


「──っと、言い忘れるとこだった。新天地への同行の件は聞いているんだろう? その時はお互い、仲良くやろうじゃないか。よろしく頼むよ」


 それだけ言葉にすると、今度こそ扉を閉め去っていった様だ。

 初めは怖い人かな? って思ったけど……優しくて、それなりに信用できそうだな。


 俺はそのままベットに戻り転がった。

 

「お願い──っか……」


 何か深い意味があるわけではない。

 ただただ、本当の意味でなにも成し遂げていない、無力な自分の手のひらを広げ、じっと見つめた。


 いつの間にか、色んなものを背負っちまったな……この手に多くの人の想いを叶えることが出来るのだろうか?


「じいちゃん……俺、ちゃんとやれるかな?」


 ハーフの町は、トゥナやティアの悲願でもある……。

 弱音を吐いている場合じゃない、今後も胸を張って会えるように、頑張らないとな。

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