第274話 交渉

「えっと……それは、どういう意味でしょうか?」


 俺の存在が国を動かす? また笑えない冗談を……そんなわけが無いだろ。


「君は知らないかもしれないが、勇者の孫の存在はそれだけ噂になっている。そして混血の仲間がいて、君が大切に思っている事も各国の要人は知っているはずだ」


「情報の発信源は……キサラギさんですね?」


「その通りだ」


 その事実を知っているのは彼女ぐらいだしな? それにしてもあの人、どれだけの影響力を持ってるんだよ。

 そう言えば、元老院だ……っとかも言ってたっけ?


「我が国は、そんな彼等の希望を叶えるために領土を差し上げたい……そう言ったのさ。もちろん他国からは猛抗議を受けたけどね。中立国が勇者を囲み込もうとしている……と」


 なるほど……勇者のブランドは、じいちゃんが死んでも尚ここまでの力があるのかよ。

 本当勝てる気がしないな、偉大すぎるだろ?


「だから言ってやったのさ『ならお前達も、土地なり物資なりを彼の大切なもの為に、少し分け与えろ。恩を売っておけば良いだろ?』ってね」


 彼はニッコリと微笑むと、笑いを堪えるように口許を手でかくした。──こっちは結構複雑な気分なんだけどな?


「カナデ君。君の名前を勝手に使ってしまい、大変申し訳ない」


 今度はあんたかよ! ここの王族は、頭を下げないと気がすまないのかよ……。


「別に構いませんから、頭を上げてください。それでトゥナやティアの様な混血の居場所ができるなら、願ったりかなったりですよ」


「そうか、君は中々の人格者なようだな。ただ私の娘を愛称で呼ぶのは些か気にくわない……」


「──話が反れてますよ!」


 バシンッ! っと言う良い音がした。 女王は手心も加えず、リベラティオ王の頭を叩いたのだ。

 俺達は後何度、この夫婦漫才を見せられるのか……。


「いたたた。そ、そこで一つ君に御願いがある。勿論それに対する対価は払うつもりだ」


「話だけなら聞かせてもらいますけど……」


 トゥナの父親だし、混血の為に動く彼は信用は……出来ると思う。

 ただ、この流れは──。


「そう警戒しないでくれ。今回、その混血の為の領地は、君に与えられるものだ。なので君には、混血の村を作って、治めてほしい」


「やっぱり……そう言う事ですか」


「なんなら、君の好きにしてもらっていいんだぞ? 例えば、自分の鍛冶屋を作ろうがね」


 ティアから連絡を受けているだけあって、俺の弱味を知ってるのか……。

 でも定住をしてしまったら、やらないといけないことが出来なくなってしまう。


「私の国には中立と聞き、辛い環境ながらも今までよりはましだと、自らの正体を偽り何とか暮らしている混血の人々も多くいる。実のところ、そんな彼らに既に話を持ち掛けてあるのだが、既に多くの志願者が君に着いていきたいと言っているのだよ」


 俺に……ついて?


 もしここで断ったら、彼等はどうなるのだろうか? 話は白紙となり、混血は今まで通り忌み嫌われ生きて行くことになるのか……。

 それは、トゥナの夢を無きものにするのと同じ。


「こんな言い方はずるいかもしれないが、私では彼等を救えない。いや、この国に住む彼等をだけではない。全世界の混血を救えるのは君しかいない……ダメだろうか?」


「で、でも俺は……やらないといけないことが」


 村の開拓をするとしよう。

 そんなの、簡単に抜け出せなくなるに決まっている……。


「そこで君への報酬だ。トゥナの体調の件は勿論、エルフの少女の件もこちらで面倒を見よう。キサラギ殿を介して、私が交渉をする。どうだね、悪い話では無いだろ?」


「そ、それは……」



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