第272話 リベラティオ王

 俺達は、リベラティオの女王とその後少しの間会談をした。

 ティアから定期報告を受け取っていた為か、彼女は重要なことはほとんど知っている様だった。


 グローリアの関係者と、魔族と思われる人物が共にしていたこと。

 自分が過去の勇者の孫で、勇者は……じいちゃんは亡くなっていること。


 俺がエルフの少女、ハーモニーと会う手段を探していることや、ラクリマの悲劇のことも……連絡がついているようだ。


 そして何より──トゥナの命が、後どれ程持つのかが分からないことを……。


「大変な冒険をなされてきたようですね……。皆様、フォルトゥナの命を救っていたこと、誠にありがとうございます」


 声が震えている……?

 女王は席を立つと共に、深々と頭を下げたのだ。

 そんな王女姿に、俺達は慌てふためいた。──ここの王族は、腰が低すぎだろ!


「お義母様……」


 これは驚いた。


 妾の娘であるトゥナをここまで心配する彼女を見て、正直なところ少し意外だったのだ。

 俺のイメージだと、王女からしたらトゥナは忌むべき存在だと思うのだが。

 文化の違いなのだろうか? いや。きっとそれは、彼女達の人柄故なのかもしれないな……。

 

「家族か……なんか羨ましいな」


 目の前の光景をみて、独り言の様につぶやいた。──ずっとバタバタして考える暇も無かったな……。


 そういえば、じいちゃんが死んでから俺は天涯孤独の身だったんだ。

 向こうに戻っても何も残っていない……。ならいっそ、彼女達のがいるこの世界で一生暮らす。

 そんな選択肢も悪くない、そんなことを思った時だった。


 部屋を入る際、ルームが閉じた扉が、再び音を立て開かれた。

 そしてその犯人は堂々たる態度で、俺たちに向かい歩いてきた……。

 何て言うか、顔は良いものの、冴えない感じのオッサンだな? しかし、何処かで見た気が……。


 その男は俺達の横を通り抜ける際、突如両手を上げ「おかえり! トゥナタン!」っと、トゥナを抱き締めようと襲い掛かった!

 だがそれは、彼女の見事な立ち回りにより、空振りに終わった。


 地面に崩れ落ちた男は、「つ、つれないじゃないか……」とぼやき、フラフラと立ち上がった。


 無理だと諦めたのだろう。男はトボトボと、女王の方に向かい歩き始めたのだ。──ま、ま、まさかな?


 不安のような、ガッカリ感のような感覚に襲われる。だって、あり得るはずが無いだろ?


 服装はだらしなくて、肩を丸めるように歩いている。

 覇気は無くオーラもない。言動も酷ければ、平気で女の子に抱きつこうとする変態だ。

 髪の毛まで濡れて……って──噴水に飛び込んだ男じゃないか!


 そんな男が……そうであるはずがない!


 しかし、現実とは無慈悲なものだ。男はただまっすぐに玉座に向かい、腰を下ろしたのだった。


「嘘……だろ?」


 驚きの余り言葉を失った。場内に入る際に噴水に飛び込む事になった男。──彼が、平然と玉座に腰を掛けたのだから!


 しかし残念ながら、それは夢でも無ければ、幻でも無かった。


「あらあなた。濡れている様ですが、また何かしらやらかしたのですか? いい加減、お気付きになられた方がよろしいですよ。──だから娘達に嫌われるって事に」


「はっはっは、無理だ無理! 可愛いものをでないなんて、男が廃ってしまう。そうは思わないか? え~っと……確か、カナデ君と言ったか?」


 目の前に居るのが王と言う驚きよりも、目の前に居るのがトゥナの父親だと言うことに驚いた。


「そ、そう言えばそうだったな……」


 忘れていたことを一つ思い出した。


 フォルトゥナ、彼女の父親がティアを送りこんだ犯人であり、こちらが言わずとも馬車を手配した張本人。

 異常なまでの、過保護な親バカであると言うことを……。

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