第271話 リベラティオの王女

 先を歩くトゥナに、俺とルームもは黙って後ろ着いて行く。

 階段を上り奥へ進み、更に上りは奥へと進む。──それにしても、広すぎる……。こんなところに住むって、どんな気持ちなんだろうな?


 ただ正直な感想、外見から想像してたよりは、内部は豪勢なものではなかった。


 グローリアの城を追い出されたときには、肖像画やら壺やら甲冑やら、通りにはお高そうな品が並んでいたが、ココはそう言うものがまったくない。


 ──代わりと言ってはなんだけど……。


「これは……ツッコミを入れるべきなのか?」


 確かに肖像画は無い、肖像画はないのだが、壁のいたるところには、似顔絵が貼ってあるのだ。

 ご丁寧に、書いた人らしき名前を乗せて。


 それは決して、上手いとは言えない。むしろある意味での画伯がはくと呼ばれる方々が描いたような……芸術って難しいな──んっ?


「こ……これは!」


 驚きのあまり、つい足が止まってしまった

 とんでもないものを見つけてしまった……。

 クレヨンの様なもので描かれた男……だと思われる一枚の似顔絵。

 その下にはなんと【フォルトゥナ 作】と明記されていたのだった。


 俺が立ち止まった事に気づくトゥナが振り返ると、その顔は次第に赤く染まっていく……しまいには、トマトやリンゴ匹敵する程に赤くなったのだ。


「い、いやぁ……中々におもむきがある絵だな?」


 俺は悟った。ここに飾られている絵は、芸術家のそれではない。

 この城に、ゆかりがあるものが描いた絵だと言うことに。


 見てしまった手前、何とかフォローをしたのだが。──こ、こらルーム、笑い声が漏れてる、漏れてるから!

 

「二人ともお願い……これは、見なかったことにして……」


 残念ながら、効果は無かったようだ。


 目を潤ませながら、トゥナは深々と頭を下げる。

 その姿を見て、茶化すことなどできるはずもなく「「は、はい……」」っと、ルームと共に返事をすることしか出来なかった。


 城内でお姫様に頭を下げられる、そんな貴重な経験をした俺達は更に奥へと進む。

 道中、もう二度程彼女の名前を見る事となったが、無事? 目的地に着いたようだ。


「こ、ここが玉座の間よ……」


 ただ歩いてきただけだが、トゥナ顔が疲れきっていた。

 彼女が家出する理由、今ならほんの少し理解できそうだ。


 そこには門番もいなく、目の前の扉は多少大きくはあるものの、普通の木造の物だ。


 またもや豪華な見た目とは程遠い……ただ、それだけことなのに何となくだが親しみを感じてしまう。

 事実は知らないから想像でしかないが、この国では無理な徴税ちょうぜいを行っていない、国民に優しい国じゃないか? そんな風に感じた。


「じゃぁ、開けるわね?」


「あ、あぁ……すっげぇ緊張してきた! 今さらだけど、俺が会っても良いものなのか?」


「あら、カナデ君怖じ気づいたのかしら? 大丈夫よ、私も居るから」


 扉は木材が擦れる甲高い音を上げ、ゆっくりと開かれた。

 緊張で、心臓が口から飛び出してしまいそうだ。


 中には金色のふちで囲まれた赤い絨毯じゅうたんが、扉から真っ直ぐと引かれていた。

 しばらく先には一段段差がありその高いところには、二つの玉座が並んでいたのだ。


「──ようこそいらっしゃいました。勇者の御孫様と、そのお連れの方」


 声をかけてきた主は、正面に向かって左側の玉座に腰を掛けている方だ。そこには、とても美しく気品のある女性がいた。


「お久しぶりです御座います。リベラティオ・フォルトゥナ、ただいま戻りました」


 彼女が女王? 辺りを見ると、トゥナもルームもひれ伏している。

 慌てて俺も、彼女達の真似をして膝をつくのだった。──こ、こんな感じでいいのだろうか?


「皆様楽にしてください。フォルトゥナ、城を勝手に出るのは些か感心できませんが、結果を見れば文句は言えませんね。この度の件、大変ご苦労様でした」


 彼女の言葉を聞き、トゥナは立ち上がる。俺もルームもそれをならい、立ち上がった。


「ありがとうございます。それと……大変心配をおかけしました、深く、深くお詫び申し上げます」


わたくしより、フォルテアに謝罪の言葉をのべなさい。貴女の事を誰より心配していたのは、彼女なのですか……」


「お母様が……? はい、分かりました」


 トゥナに優しく微笑みかける彼女を見て俺は確信をした。間違いない──彼女は心優しき、支配者である……っと。

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