第270話 リベラティオ城

 巨大な城の入り口に馬車を止めた俺達は、トゥナを一人下ろし、その場で待機をしていた。


 今、目の前ではトゥナが、入り口の門番と話をしている。遠目で見ても、彼女と話している門番が固くなっているのがわかる。


 少しの間会話をすると、トゥナがこちらに向かい駆け寄ってきた。


「カナデ君。あの兵士さんがユニコーン達を厩舎まで連れてってくれるらしいわ。あの方に、お願いしてもいいかしら?」


 トゥナの話では、城内は馬車が通るスペースは十分完備されている。

 しかし、厩舎自体は少し離れた所にあるらしいのだ。

 彼女が住む城の関係者であれば、万が一も起こらないだろう。ここはお言葉に甘えておこうか?


「あぁ、俺が乗ってくのも二度手間だしな、お言葉に甘えるよ」


「それじゃ、頼んでくるわね?」


 もう一度駆け寄るトゥナを見て、門番は背筋を伸ばす。──これを見てると、今更ながらトゥナがお姫様なんだな……って改めて思わされるよ。


 ユニコーン達に、良い子にするよう言い聞かせ、俺達は正面の門を開けてもらう。


「──これは驚いた……」


 視界に飛び込んできたのは、ガーデンアーチと言うのだろうか?

 二頭引きの馬車がすれ違うことが出来る幅、御者席に立って手を伸ばしても、届かないほ高さのある緑のトンネルが、俺達を迎えてくれたのだ。


 城内に足を踏み入れると、つい辺りを見渡してしまう。

 天井の隙間から差し込む光、所々に咲く花……まるで、自分がおとぎ話の世界の登場人物だと錯覚するようだった。


 トンネルを抜けると、目の前には巨大な噴水があり、そのまた更に奥には、見上げると首が痛くなりそうな城がそびえ立っていた。


「す、すげぇ~……」


「ほんまやな~こりゃ創作意欲を掻き立てられるわ……」


 地球でも写真を見たことはあるが、現物は違う……。

 向こうで言うところのゴシック様式な建物は、敷地の緑と相まって、つい足を止め見惚れてしまうほどだった。


「ふふふっ、二人とも見すぎだから、入り口はすぐそこよ」


 トゥナが噴水を回り込み、俺達を先導するように歩く。

 彼女に遅れまいと着いていくのだが──甚平の俺、流石に場違いじゃないだろうか?


「「──あ、貴方様は!」」


 トゥナの姿を見た二人組の門番は、背筋を伸ばし慌てながらも胸の前で手を構える。──この国の敬礼なのだろうか?


「帰ったわ。開けてちょうだい」


 堂々とした態度で男達に話しかけるものの、相手の二人は顔を見合わせ何やら相談を始めたのだ。


「フォルトゥナ様……あ、あのですね? 今はお止めになられた方が……」


 止めとけって、俺達が中に入ることに何か不都合でもあるのか……。

 まさか、何か大きな問題でも起こってる訳じゃないよな!?


 トゥナはその話を聞くと、ため息を付きながら頭を抱えた。

 久しぶりな気がするな? トゥナポーズ……。


「大丈夫だから。良いから開けてちょうだい」


「わ、分かりました……。それでは、十分にお気をつけ下さい」


 門番はそう口にすると、門を開ける為のレバーに手を振れた。──な、何が起こるって言うんだ?


 門番がレバーを引くと、鎖の音と共にゆっくりと扉が開いていく。

 その時トゥナが急に「舞姫……」っと、呟いたのが聞こえた。


 扉が開ききる、その直前だ。

 目の前には人影が見え「──フォルトゥナちゃぁぁ~ん!」っと、とてつもない勢いでトゥナめがけて飛び付いて来たのだ!


 ──敵襲か!?


 無銘に振れ、即座に構えた。

 トゥナはスキルもあってか、飛びかかってきた人影を難なく避けると、人影はその勢いで向かいの噴水に突っ込んでいったのだった……。


「さぁ、カナデ君。行きましょうか?」


 ……え、えぇ~~。


「い、いや。今おっさんが飛び出してきたけど、あのままにしたら流石にま……」


「──カナデ君!」


 言葉を遮られてしまった。決して長い付き合いとは言えないが、彼女の顔を見て理解した。──これは、触れない方がいいやつだと。


「い、行こうか? フォルトゥナさん……」


 それ以上なにも聞くことなく、トゥナの後を着いていく。

 笑顔に見える彼女の顔に怒筋どすじが浮かんでいるのを、俺は見逃しはしなかったのだ……。

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