第269話 お別れ
「……皆様、今まで大変お世話に……お世話になりました! 朝方も申しましたが、私はここにいますので、いつでも遊びに来てください!」
リベラティオのギルド前で、俺を含め皆が馬車から降りる。
立派な建物を前に、ティアが涙しながらお別れの挨拶をした。
「ティアさん……元気で居てくださいね? 城を抜け出しても、会いに行くので……」
「そうやで! うちもしょっちゅういったるわ、覚悟しいや?」
皆が順番に握手を交わす。
次は俺の番だ……ティアのたわやかな手を握り、彼女の目を見つめる。──こんな時……何て言えばいいんだろ?
『カナデ、カナデ。ボクもティアリンと握手するかな! 移動するからバックに手を入れてもらうカナ!』
人が多くて、姿を出すことが出来ないミコが、念話で俺に話しかけてきた。──そりゃミコもお別れしたいよな?
「ミコも、握手したいってさ?」
俺は握手のために繋いでいた手を、「ミコが居るからバックの中に手を入れてくれ」と言いながら不意に引いた。
しかし、突然引っ張った為か、彼女はバランスを崩し倒れてきたのだ。
そして俺は、彼女を──抱き締める格好になってしまったが……。
他の女性陣からは、驚きと避難の視線を向けられる。
手を引くことを事前に言葉にするべきだったな……軽率だった。
でもまぁ、やっちまったものは仕方がない……後で、しっかりと怒られればいいか?
「こ、これは恥ずかしいですね……でも悪くは無いです」
俗に言う、ハグ……って言うやつだろうか? 意図せずそうしてしまった俺の肩に、ティアは顔をうづくめ、首を振り擦り付ける様な仕草をした。
思わぬ彼女の仕草に顔が熱くなる、心臓の音が聞こえてはいないだろうな?
「こほ、こほこほ!」
お別れだとしても、流石に見逃す事が出来なかったのだろう。
咳払いをしながら、トゥナが物言いたげな顔で此方を見ていた。
「ティ、ティア。ミコが待ちくたびれてるから!」
「そ、そうですよね! ミコ様が握手を……でしたよね?」
抱きつくのを止め、慌てながらも俺のさげているマジックバックに手を突っ込んだ。
「──ティアリン、行っちゃやだカナ!」
彼女が手をいれた直後、ミコが駄々をこねるような声が聞こえた。──バックの中で手をつかみ、引き止めでもしているのだろうか?
「ちょっとミコ様、くすぐったいです! や、やめてください!」
い、いったい……何をしているのだろうか? 普通に引き止めているんだよな?
その後、ミコを何とか説得すると。程なくして──別れの時がやってきた。
彼女に見送られ、俺達は城に向う。
人の波間に時々見える彼女は、その場から動こうとはせず、涙ながらずっと俺達に向け手を振っていた。
しかし……動き出した馬車を止めることはない。決意が、鈍ってしまう。
メンバーの誰しも口を閉ざした……会えないわけではない。会えないわけではないのに、不思議と寂しく思ってしまう。
例えるのなら……仲の良い友達が、転校するような、そんな感じだ。
「──トゥナ、大丈夫か?」
ティアが見えなくなって程なく、俺の隣に腰を掛けているトゥナは下を俯き中々顔をあげようとしない。
もしかしたら、また泣いて……
「大丈夫よ、心配しないで。辛いのは確かだけど、今は少し考え事をしていただけよ?」
一緒に冒険した日々でも思い出していたのか? そうだな……色んな事があったからな。
「ねぇカナデ君。私がまた家出すれば、ティアさんが来てくれるんじゃないかな?」
「──へっ!?」
お、おい。とんでもないこと言い始めたぞ? まさかな……本気なわけ……。
「トゥナ……冗談だよな?」
しかし彼女は、質問に返事をする事はなく、満面の笑みを浮かべる。
そして黙ったまま、俺に微笑み続けるのであった……。──フォルトゥナさん、冗談だよね?
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