第265話 流れる星の夜─ティア視点─
これは、魔物の大群を抜けた後の話。
夜空には無数の色で彩られた、数えきれない程の星が広がり、時折それらは地表に向かい流れ落ちていく。
目に見えることの無い何かに熱を奪われた風は、すべてのものを平等に撫でるよう吹き付け、私の長い髪も遊ばれるかの様に風になびいた。
「カナデ様……大変御疲れのご様子ですね……」
パチパチと鳴り響き舞い上がる薪の火が、いつしか目の前で寝ている愛しき殿方を照らし出していた。
異性に心奪われる事など無いと、何処か思っていたのに……寝ている彼を見て、何度手を伸ばした事か。
指先が彼の頬触れただけで、胸が跳ね上がるようだった。
まったく……気づかぬ間に今ではこの体たらくだ。
──恋とは、なんと恐ろしいものか。
「こうも目を覚まさないと……行為がエスカレートしちゃうじゃないですか……」
彼が起きないのもおかしくはない。何せ、昨晩は一睡もしていないのだから……。
一人言を呟いた私は、手に持っている手紙を広げた。
それは、ハーモニー様から差し出された手紙だ。
その中には悲しくなる程の、様々な思いが
何かで
「良かったです。リベラティオにつく前に、ミコ様も何とか間に合いそうで……」
実のところ、私は慌てるように彼と共にいるミコ様に、連絡手段である伝鳥を教えました。
流石、伝説の精霊様。つい先程、それも無事形にする事が出来たのでした。
本人に自覚はないでしょうが、彼はこの世界にとって特別な存在になるでしょう。
こんな私でも、見る目には自信があります。
彼と離れてしまえば、きっと手の届かないところに行ってしまう……ハーモニー様にも頼まれましたし、連絡手段の確保をしたのです。
「──いや、違いますね……」
今のは建前でしょう。本音は、何とか繋がりを作って置きたかった。
彼は普段はぶっきらぼうな所もあるが、実は困った人をほ放っておけない優しい人だ。
きっと私が弱音を吐いたり、オネダリをすればどんなところにも会いに来てくれるはず……。
「私は……いつからこんな乙女みたいな事を、考えるようになったのでしょうか? これも全部、カナデ様のせいですよ?」
一人言を呟き、彼の顔を見つめた。
不思議と視線は彼の唇に向いてしまう。──私は、なにを考えて……。
何度目だろうか? 私は衝動が押さえきれず、出来心で手を伸ばそうと思った。
先程触れたよりも、もう少しだけならしっかり触れても起きないだろう……きっと、起きないはず。
だがしかし、残念ながらそう言うわけにも行きませんでした。馬車の方から何やら足音がしたのです。
「──フォ、フォルトゥナ様? 交代には、まだお早いですよ?」
内心ドキドキでした……まさか、こんなにも早くフォルトゥナ様が来るとは思っていなかったのです。
私は、相談を受けていた為、彼女もカナデ様に恋心を抱いていることを知っていました。──い、今の行為を見られていたでしょうか……?
「ううん、違うの。何となくだけど、ティアさんの様子が可笑しい気がして……最近無理しておどけて見せるって言うのかな?」
気づいては……いないみたいですね。
こんな抜け駆けみたいな真似をしていた私に対して、純粋に心配してくれているなんて。──少し恥ずかしいですね……。
「よく気付かれましたね? フォルトゥナ様には敵いません……」
フォルトゥナ様が心配してくれている……その事実もまた、私の心を熱く、熱く火照らせた。
今後の事もある……彼女には、真っ正面から話しておくべきだろう。
決意を固めました……今までの胸に秘めていた考えを、伝える為に。
「もうすぐ、リベラティオに到着しますよね? 私が皆様と御一緒できるのは──そこで終わりになります」
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