第264話 コドラゴン種

「──カナデ様、こちらになります。着いてきてください!」


 ティアが矢面に立ち、その後ろを前方の護衛と後方の護衛の為にトゥナが歩く。

 さらにその後ろに、馬車に乗っている俺とルームが続いた。


「ティ、ティア? 大丈夫なんだよな、これ! 魔物がすっげぇ見てるけど、大丈夫なんだよな!」


 ティアの話ではテリトリー同士の接触を防ぐため、いくらかの隙間が存在しているらしい。

 その中を、ジグザグと縫うように進んでいるのだが、それはおどろおどろしく、異様な光景だった。


 本物ドラゴン程では無いにしろ、大きな蜥蜴とかげが目を光らせ、大勢でこっちを見ているんだ。そんなの、恐怖でしかないだろ?


「カナデ君……落ち着いて、何かあっても大丈夫。だって貴方は、私が守るもの」


 守られる気は満々だけど、ハッキリ言われると少し情けないな?

 で、でもまぁ、俺もいざとなったら……やるときはやるんだからな!

 

「せやで、兄さん。ビビっててもしゃあ無いやろ? ここは、リーダーらしく、ドシン! っと構えたらええんちゃうか?」


 幌をあけ、荷台の中から鉄の板越にルームが声を掛けてきた。

 どうやら、彼女の守りは万全の様だ……。──ルームさん、エモニアをそんなところで広げるの止めようか?


「──安心してください。これだけ囲まれてるのに、実際に襲われていないですよね? 私が有能だと言う事を、理解できたでしょうか?」


「確かにそうかもしれないけど……」


 実際に魔物は、こちらを警戒はしているものの、襲ってくる気配は一切ない。

 このまま順調に行けば、通り抜け出来る気もするのだが……。


 しかしティアのやつ、いったいどこを見て判別してるんだよ?

 俺には四種類どころか、一種類にしか見えないんだけど?


 これは認識を改めないと──麗しの観測者の名は伊達じゃないらしい。


「カナデ様、くれぐれも走らないで下さいね? くれぐれもですよ? 何かあったら、その場で止まる事! 彼らのテリトリーを次々踏んでいく方が、よっぽど危険ですからね?」


「あぁ、ふりじゃないんだろ? 分かってるよ……頼りにしてるからな?」


 ゆっくり、ゆっくりとだが、先に進み続けた。

 いつしかティアの的確な洞察力により、魔物の切れ間が見えたのだ。


「カナデ様、後少しです! 慌てず走らず、しっかりと着いてきてくださいね!」


「あぁ、大丈夫だ! それにしてもティア居てくれてよかったな、一時はどうなる事かと思ったよ……」


 ティアは俺の言葉を聞き「誉められると照れますよ」と、両手で顔を覆い、首をブンブン振った。

 余程、役に立てた事がうれしかったのだろう。


 そして手を下ろした彼女は、「あっ!」っ一言声を出し、その場に止まってしまったのだ。


 彼女の言葉を聞き、背筋に悪寒が走った。

 側面からは、キュキュキュ! っと、警戒音の様な音が聞こえる気がした。


「カナデ、何か来てるカナ! 目を背けるなだシ!」


 なんで外に居るのに、俺の思考を読んでるんだよ。


「申し訳ありません。種を見間違ってしまったようです、テリトリーを踏んでしまいました」


「──やっぱりかよ!!」


 二頭のワニにも似た大蜥蜴おおとかげが、舌をチョロチョロと出し、目を輝かせ想像以上の勢いで接近してくる。

 砂煙を上げ走る姿は、もはや肉食恐竜の様にも見えた。


「ぎゃぁぁぁ!」


 真っ先に俺が叫び声を上げた。

 蜥蜴二匹は、あろうことか馬車に向かい走ってきたのだ。


 防衛の為、無銘に触れた……。切る覚悟をした──その時だった。


「カナデ君は……私が守るから!」


 トゥナはレーヴァテインを抜き、馬車に向かい飛びかかってきた二体の魔物を切り付けた。

 その斬撃はあまりに早く、俺です見失ってしまうほどだった……。


 魔物達の攻撃は、結局馬車には届くことなかった……。

 

 ドサッ! っと音を立て二匹とも、地面に崩れ落ちる。


 俺は、トゥナの見事な腕前に、つい目を奪われてしまった。──凄い。前よりも、段違いに早くなっている……。


「──言ったでしょ? 私が守るって」


 そう言いながら、剣に付いたばかりの鮮血を振って飛ばし、鞘へと納めていく。


「あ、あぁ……助かったよ」


 彼女の急激な変化に、俺はどこか不安を感じた。

 まるで、消える前の蝋燭の明かりみたいなものじゃないのか? ……っと。

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