第262話 寝れない夜

 大地の揺れは収まり、辺りは驚く程の静寂が訪れた。

 それは地震の正体が、あの巨大なドラゴンによ引き起こされたものだと物語っていた……。


 霧の中に身を潜め、いつものように交代で睡眠を取る……その予定であったが。


「流石にあれを見た後じゃ……寝るに寝れないよな?」


「そうね、今でも体が震えてるわ……」


 ドラゴンの姿を見た俺達は、恐怖と興奮で寝付けないでいた。

 今も目を閉じただけで、まぶたの裏にあの時の恐怖が映し出されるほどだ。


「なぁ、ここからリベラティオまではそんなに遠くは無いんだろ? 今までのこの近辺で、あのドラゴンの目撃例とか無かったのか?」


 俺の質問に、ティアが横に首を振る。


「リベラティオと近いと言っても、まだかなり距離がありますからね……。それと過去の記録によりますと、一般的にドラゴンの睡眠は非常に長く、数年、数十年眠り続ける事もあるようです。それ故、活動時間が短いと何処かで見たことがあります。遭遇率が低いのも、それが理由のひとつじゃないでしょうか?」


 睡眠が年単位かよ! スケールがデカイのは大きさだけじゃないって事か……。

 それより、彼女の言葉に引っ掛かるワードを見つけた、俺はそれを確認すべく恐る恐る口を開く。


「……一般的にって、ドラゴンはそんなゴロゴロ存在するのか? あんなバカデカイのが……?」


「いえ、カナデ様。実際、目撃されるのはごく稀ですよ。それにあの規模のドラゴンは、今までの記録では報告されておりません。個体差なのか……もしくは種が違うのかもしれませんね……」


「ってことは、奇跡的な確率で偶然出会したってことか?」


「残念ながら……そう言う事になりますね」


 それはまた、ついていない。

 いや、ある意味ついているのか? どんな絶叫系の乗り物でも、味わえない恐怖だったからな──言わずとも、二度とごめんだけどな!!


 この後も俺達は、不安や恐怖を誤魔化すように話を続けたのだった──。



 ──そして、どれぐらいの時間が過ぎただろうか……? 

 いつしか太陽が登り、雲海が朝日に照らされる。

 ドラゴンは夜の間戻ってくることはなく、俺達は胸を撫で下ろした。

 

「──結局……全然寝れなかったな……」


 女性陣は体を寄せながらも、少しの間だけ眠る事が出来ているようだ。

 ユニコーン達も時折起きてはいるものの、疲労の為か比較的眠りにつけていた。


 そんな中しっかり寝れたのは、今も涎を垂らしているミコのみだった。──俺なんて一睡も出来なかったのに……コイツは本当に大物だよ。


「──みんな、起きろ朝が来たぞ!」


 俺の声に、次々と皆が次々と目を覚ます。

 それにしても、太陽の明かりに、こんなにホッとすることになろうとは……。


 気温変化のためか、昨日より霧が少し高く深い。霧の外に出ると、昨日の出来事が何もなかったかのように、平和で青い空が広がっていた。


「私達、何とか無事に生き延びたみたいね?」


「あぁ……まだ油断は禁物だけどな?」


 確かに、無事に生き延びはした。

 しかし、メンバーの中には、心にトラウマを抱えたものも居たようだ……。


 ルームなんて、先程からずっとうつ向きっぱなしだからな? 余程怖かったののだろう、その気持ちよくわかるぞ……。


「今思うと、あのドラゴンの素材……ちょっと欲しかったわぁ……」


「──おい、たくましすぎるだろ!? 俺の心配を返せ!」


 先程までの暗い雰囲気が嘘のように、俺達は皆して久しぶりに笑った。

 ルームも意図したことなのかは知らないが、照れくさそうに歯を見せて笑う。


「じゃぁ、和んだところで──再出発するか?」


 その後すぐ、荷物を片付けリベラティオに向けて再出発をした。明るくなった以上、長居は禁物だからな。


「──昨日はあれほど怖く感じていた道も、怖いと感じなくなっているな……」


 慣れとは怖いものだ。

 だがそんな時こそ危険だ……手綱を引き、前に前にどんどん進もうとするユニコーン達を何とかなだめる。

 はやる気持ちを押さえられない……と言うよりは、この山から早く抜け出したいのだろう。


 そんなことを何度も繰り返しながらも、半日ほど馬車を走らせた。

 すると山に囲まれた道は開け、目の前の景色がガラッと変わったのだった……。

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