第258話 魔法指導

 キルクルスを出発して二日後。


 目的地のリベラティオまでは、まだまだ時間がかかりそうだ。


 景観はいつしか変わり、辺りを見渡すと山々が連なっていた。

 正面遥か先に見える、回りより抜きん出た山を越えた先に、目的地のリベラティオがあるらしい。


 そんな移動の中、今日もティアが俺の隣に座り、ミコと一対一で何かを行っているみたいだ。


「──なぁティア、それは何をしているんだ?」


 ティアの指導に従いミコが指を光らせると、馬車が動いている為なのかは分からないが、光の線が空中に現れ、後方へと流れるように伸びていってるのだ。


「これですか? カナデ様も、伝鳥は分かりますよね? それの基礎ですね。お時間もあるので、僭越せんえつながらミコ様にご指導をさせていただいているのです」


 伝鳥と言えば、この世界の魔法による連絡手段だったか? 

 ミコは調子が出てきたのか、指先をブルンブルン振り回す。

 残像効果とでも言うのだろうか? まるで、花火を振り回した時に見える線のようだ。


「ティアが使えるし、特に必要なさそうな気がするんだけど?」


「何かあった時に、カナデ様と連絡をと取る手段があった方が良いかと思いまして。エルフの集落に向かわれたときも、カナデ達の安否を心配してたんですよ?」


 なるほど、常に一緒に居るとは限らないからな?

 それにしても、ミコのこの覚えの早さはなんだ! 俺の時は、えらく時間が掛かったのに。

 指導者の違いか? そうなのか!


「──それに、伝鳥でカナデ様と連絡を取り合うの……少し素敵だと思いませんか?」


 しおらしくうつ向き、指先を擦り合わせるティア。──彼女の根っこを知らなければ、大半の男はこのギャップやられてしまうな……。


「いや。俺、文通みたいなの苦手だから……字も汚いしな?」


 どうやら、俺の発言が気にくわなかったのだろう。

 ティアは両頬を膨らませて顔を近づけてきた。


「も~う! カナデ様は、本当に乙女心が分かってませんね! 気になる殿方と伝鳥でやり取りが出来たら……世の女性はそんな風に、皆憧れを持つものなんですよ?」


「そ、そう言うものなのか?」


「──そう言うものなのです!」


 ち、地球でも異世界でも、乙女心は難しい……。

 そもそもミコ経由で出してたら、内容が露見するだろ? そんな文通嫌だぞ。


 そんなやり取りの後しばらく経つが、二人は今だ伝鳥の特訓を続けていた。

 そのかいあってか、ミコは文字を書けるまで上達していた。

 

 一生懸命な二人を見て、俺はふと思った。──いまさらだけど、魔法って俺でも使えるようになるのか?


「なぁ、ティア。それって俺でも出来るのか?」


 突然の質問に、ティアは考える素振りみせる。


「どうでしょうか? カナデ様が魔力を自在に扱えるようでしたら、難なく出来ると思いますが……出来ませんよね? ヒューマンの方で、魔法を使える人は稀だと聞いておりますが……」


 魔力を自在にって……無理だ、出来る気がしない。

 練習してなんとかなるものなのだろうか?


 そんな事を考える中、ティアの膝の上に座っていたミコと目が合った。


「フフン! カナデ、ボクの偉大さに今更ながら気づいて遅いカナ!」


「とっくに理解してるよ。ミコがいなかったら、ここまで生きてこれなかったからな?」


 確かに昔は、ただの大飯ぐらいだと思っていた。

 そして今では、九割程しかそう思ってはいない。

 残り一割ぐらいは、頼りになる精霊だと思ってるわけだから、俺の中でのミコの株は急上昇だろ?


「じゃぁ何かあった時には、ミコに連絡係を頼んじゃおうかな?」


 別に、魔法なんて使えなくてもいい。仲間に助けてもらえばいいのだから。

 十人十色いいじゃないか。


 ──しかし、俺の考えは甘かった。


「一回、一食カナ」


「──飯を要求するのかよ!」


 信頼する仲間の一人は、どうやらタダでは働かないらしい。──まったく……誰に似たのやら。

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