第257話 キルクルス旅立ち2
「──よし、準備終わりだ。これでいつでも出発できるな」
ユニコーン達準備を終え厩舎の外へ出ると、荷物を抱えたトゥナが宿の反対から歩いてきた。俺に気づいたのかこちらに向かい手を振っている。
「おはよう、カナデ君!」
そう言いながら、小走りにトゥナが近づいて来た。
「あぁ、おはよう。こんな早くにどうしたんだよ?」
日が昇ってきたとは言え、まだ出発には少し早くないだろ? 何処かに、外出でもしていたのだろうか?
「ギルドに行ってたのよ。リベラティオまでの道のりで、何かクエストが無いか確認しにね」
「相変わらず真面目だな? 依頼も大事かも知れないけど、病み上がりなんだからあまり無理するなよな。もう少し寝てろよ」
しかしどういった訳か、彼女は返事ではなく宿の方を指差したのだ。
「でもカナデ君──皆準備できてるみたいよ?」
指差す方を見ると、ティアとルームが荷物を持ち宿から出てきた。
「私達はやることが押してますからね? カナデ様、十分明るいですし出発しませんか?」
「せやで? 寝るのなら移動中でも出来るわ。はよ出発するで!」
まったく……三人ともいい笑顔しやがって。何のために昨晩打ち合わせしたのやら。
「皆……本当にせっかちだな?」
口ではそう言ったものの、少しでも早くリベラティオに向かえるのは正直嬉しい。
そして何より、皆が同じ気持ちになっている……そんな粋な事、嬉しくないわけが無いだろ?
「それじゃぁ……少し早いけど、出発するか!」
俺は厩舎に戻り、ユニコーン達を馬車へと繋いだ。みんなで馬車に乗り込み、俺は手綱を握る。
「──オスコーン、メスコーン。頼んだぞ!」
手綱を叩く音と共に馬車は動きだし、町に来た時とは反対側に位置する門へと走り出した。
水路の隣を横並びに走り、車輪の音を立てながらも馬車は進んでいく。
朝焼けが水の町を照す。
凛とした空気は少し冷たくも感じたが、それを不快とは感じなかった。
少しでも早く前に進める……今はただ、それが嬉しくて心が火照っている。
門を潜り、橋を越え。キルクルスを背に、俺達はリベラティオへの陸上を進んでいった──。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
──町を出て程なくすると、急に御者席に繋がる幌が開き、中からティアが現れた。
彼女はふらつきながらも、荷台から御者席に移り、俺の隣に腰を掛けた。
「どうした? ティアが前に来るなんて珍しいじゃないか?」
普段なら「私の特等席は、フォルトゥナ様の隣です」なんて、言いそうなのにどういった風の吹き回しなのだろうか?
「フォルトゥナ様が、先程からルーム様となにやらお話をしているので、手持ち無沙汰になりまして。それにたまにはこう言うのもいいんじゃないかな? って思った次第です」
なるほど、構ってもらえなくなり仕方なくって所だろうか?
今まで隣はハーモニーだった為か、少し窮屈に感じるような……。
どうやらそれは、気のせいでは無いようだ。
ティアは肩が触れるほどに密着し、ちょっとした段差で馬車が揺れると、時折自分の体重を預けるようもたれ掛かって来る。──ま、まぁ拒むほどの事でも無いよな?
ティアの長く美しい髪から、石鹸の優しい香りがするものの、俺は必死に平常心を保つ努力をする。
時折脳裏に浮かぶハーモニーが、鋭利なものを握りしめている……そんな気がしてならなかった。
「カナデ様、先程から表情をコロコロ変えていますが、どうかなされましたか?」
大人の余裕なのか? ティアはうっすらと顔を染めながらも、からかう様な笑みを俺に向けてきたのだ。
「やっぱり、わざとかよ……」
「やっと気づきましたか? こんな触れ合いも、たまにはいいかな……なんて思いまして」
そんな事を言うと、今度は堂々ともたれ掛かってきた。
何となく気まずくなり、少しの間お互いに口を閉ざした。
「──カナデ様、遅くなりましたが、本当にありがとうございます!」
「なんだよ? 急に……」
沈黙の後の感謝の言葉。突然の事で、本当に察しがつかないのだ。
「フォルトゥナ様を助けてくれたことも、冒険に誘ってくれたことも、貴方にはお世話になりっぱなしで……感謝をしても、感謝をしきれないぐらいで……」
あぁ…その事か? トゥナにしてもティアにしても、本当に律儀だな。
「気にすること無いだろ? トゥナを助けたのも、ティアを無理やり冒険に誘ったのも、俺そうしたかっただけだしな?」
「カナデ様……少々格好つけすぎですよ?」
そう言いながら、ティアは自分の腕を俺の腕に絡め顔をうずくめてきた。──腕にむ、む、胸が当たって!
顔から火を噴き出しそうになりながらも、なんとかポーカーフェイス装う。
「お、おほん! それにまだ何も解決してないんだ、全部上手く行ったら、その時改めて言ってくれよ」
「そうですね……それでは私も、これまで以上に頑張って皆様をサポートしていきますね!」
ティアは絡めていた腕を離し、小さくガッツポーズをした。
内心、ムニムニが離れガッカリしたが、彼女のやる気に満ちた笑顔を見て、そんな彼女に俺も負けてられないな? っと、思わされたのだった。
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