第256話 キルクルス旅立ち

 冒険の為の準備を終えた俺達は、その翌日キルクルスの町から立つ事を決めていた。

 次の町はリベラティオ。予てより、俺達が最終目的地としていた町だ。


 トゥナの出身地でもあり、彼女が住んでいた城がそこにあるはず……。

 しかも俺は、彼女の父。すなわちリベラティオの国王にも会うことになってんだよな?

 考えるだけでも胃が痛くなりそうだが、トゥナの寿命の件もある。

 伝鳥で事前に報告してあるとは言え、リーダーである俺が知らんぷりと言うわけにもいかないだろう。


 実のところ、その会談時にトゥナの両親にも協力を仰ごうと考えているのだ。

 自分達の娘の事だ、国王とは言え無下にも出来ないだろ?


「食料良し! 日用品も足りてるな?」


 それにしても、少し早く起きすぎてしまったな? 


 宿の窓から外を見ると、そこには巨大な太陽が、うっすらと顔を除かせていた。

 活動をしている人は少なく、まるで町全体が眠っている様にも感じた。


「それじゃまだ早いし、オスコーンとメスコーンの様子でも見に行くかな。ミコ起きろ、通訳を頼みたいんだけど?」


 そう言いながら俺は、マジックバックから二頭のユニコーンの朝食出した。その中から人参を一本取り出し、寝ているミコのすぐ近くに置いてみた。──いくらなんでも……起きないよな?


 流石のミコも、これでは起きないか。人参を片付けようと手を伸ばした──。するとあろうことか、ミコは寝ながらも自分の体を引きづり、人参にしがみついたのだ。


 なんて執着心なんだ……もはや何も言うまい。


 彼女が這いつくばり、通った跡には透明なキラキラテカテカした液体が残っていた……。


 ──そんなこんなで、何とかミコを起こした俺は、ユニコーン達の様子を見に行く事にした。

 実のところ、ハーモニーがいなくなってからの数日間、ティアが率先して彼らの面倒を見てくれてたのだ。


「──おはようオスコーン、おはようメスコーン。どうだ? 少しはゆっくり出来たか?」


 ハーモニーエルフの集落に向かった際、オスコーンとの約束があったため、俺は顔を出すのを控えていた。


 そんなとき、ティアから「彼らの食事位でしたら、私にお任せ下さい」っと言われ、任せっきりにしてたのだが……二頭の様子はどうだろうか?


 厩舎の中を覗くと、早速オスコーンと目があった。

 前までは好戦的で、俺を見ると体当たりを仕掛けるオスコーンの様子が、なんかいつもと違うような?


 大人しく鳴き声を上げ、何かを話しかけている様にも見えるのだが……。


「ミコ、何て言ってるんだ?」


 寝ぼけ眼のミコがマジックバックから顔出し、オスコーンの声に耳を傾け頷いている。


「分かったカナ!」っと声を上げると、俺の目の前まで飛んできた。


「お前さんがい事やってくれたお陰で、彼女との関係が進展したぜ。ありがとうな? って言ってるカナ」


 な、何! コイツいつの間にかメスコーンといい感じになってたのかよ!?

 なんだ、この馬に先を越された感は……。でもまぁ。


「良かったじゃないか! アプローチし続けた甲斐があったな」


 ここは素直に祝福してやろう。なに、俺は器の大きな男だ、仲間の幸せぐらい、素直に喜んで……。


 そんな事を考えていると、ミコはついでに、メスコーンの通訳を始める。


「──うんまぁ、カナデちゃんには悪いけど……あたし、オスコーンと付き合う事にしたわ! カナデちゃんはかぐわしいけど、草食系すぎてもどかしいもの! 時代はガツガツ来る肉食系よね! って言ってるシ。プフッ」


「──おい、なんで俺がフラれたみたいに言われてるんだよ!! 人生で最初にフラれたのが馬って、笑い話にも出来ないだろ!?」


 そんな俺を目の前に、二頭のユニコーンは頭を擦らせイチャイチャし始めたのだ。──なんだ? この釈然しゃくぜんとしない感情は! リア充にジェラシーなのか? 俺!


「プップップ、カナデ元気出すかな。大丈夫カナ、カナデにはボクやみんな……プフフフフ!」


 笑うか慰めるか、どっちかにしてくれないか?

 

 この後俺は、二頭のイチャイチャを見せつけられながらも、餌やりや水やり、体調の確認に蹄の管理。にブラッシングなどを行った。


 改めて思うが、こんな色んな仕事をハーモニー任せていたんだな……。

 ハーモニーだけじゃない、俺は他の皆にもたくさん支えられて来たんだよな?

 

 俺は馬車に繋ぐためのハーネスを、二頭に着けながらも心の中で仲間のありがたみに感謝した。

 ついでに、リア充爆発しろ! なんて物騒な事も、少しだけ思いながら……。

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