第255話 冒険準備と買い物

「なぁミコ、なんで女の人の買い物って、異世界でも長いんだろうな?」


 この町からリベラティオまでの移動は、約八日程掛かるらしい。

 その為、少なくなってきた食料の調達、生活必需品の買い出しに来ていたはずなのだが……。


「カナデ様。フォルトゥナ様の復帰祝いを兼ねて、お洋服等をプレゼントしたいのですが、駄目でしょうか──?」


 ──っと言うティアの提案の下、俺達はトゥナの新しい服を買いに来た訳だ。


 しかし店に入った開始直後、女性物の服屋に気恥ずかしくなり、共に買い物をすることを断念した俺は、店の前に備え付けられているベンチに腰を掛け、二人を外で待つことにしたのだ。


「そんな事、ボクが分かるわけ無いカナ? モゴモゴモゴモゴ……」


 ミコは俺の質問に答えながら、マジックバック中で、早速購入したばかりの食材を消費していた。──これは、また帰りに買い足しておいたほうが良さどうだな……。


 そう言えばこっちの世界に来る前に、男と女だと買い物に対する考え方が違うって聞いたことがあるな?


 そんな事を思い出しながらも、俺はミコを見た。──でもミコは女の子……だよな? しかし、どちらかと言うと俺よりな気がしなくもないんだよな?


「なぁミコ? トゥナ達と買い物に行きたいようなら、マジックバックを渡してくるぞ? バレない様に気を使うなら、今日のところは少しぐらい顔をだしても……」


 俺の気遣いの台詞に、ミコは食べカスを飛ばしながら首を横に振って見せた。


「カナデ、あそこは洋服屋さんカナ。食べ物は売ってないし!」


「いや、女の子なんだから、洋服とか興味あるだろ?」


 食べる手を止めたミコは「むむむむ~」っと、少し何かを考え始めた。


「ん~そんな感じの事、昔ヒビキにも言われた気がするシ。でも興味ないって言ったら何か言ってたカナ?」


 え、悩んでたのってそれなの? てっきり服を見に行くかどうかだと思ってたんだけど……。

 それにしても、じいちゃんは一体ミコに何て言ったんだろうか?


「思い出したシ。色気より食い気、花より団子だな? って言ってたカナ」


 な、なるほど。的を得ている。今も昔も、ミコは変わらず食い意地だけ張ってたってことなんだろうな?

 暇潰しにそんなミコを眺めていると、俺は突如声を掛けられたのだった──。



「──カ、カナデ君……この服どうかしら?」


 そう言いながら俺の前に姿を見せたのは、白と青色をベースに、多くのフリルを装飾されたドレスを着込んだ可愛らしい姿であった。


「そ、そんな服、この店によくあったな?」


 日常的に鎧を外した姿はちょくちょく見てはいたが、メイクや本格的なオシャレをしたトゥナを見たことは無かった。

 ただでさえ元が良い彼女だ、それなのにこんな着飾られたら……動揺しないわけないだろ?


 現に彼女は、周囲の人々の視線を一人占めしているわけで……。


「カナデ様? 話を誤魔化さないで下さい、こんな時何て言えばいいか分からない程、唐変木とうへんぼくじゃありませんよね?」


 トゥナの後ろからティアが現れ、俺に彼女を褒めろと催促をしてきたのだ。──くそ……退路を絶たれたか!


 今まで一緒に冒険してきた手前、面と向かって褒めるのは何となく気恥ずかしい。なんて言えばいいのやら……。


「──に、似合ってると思う。何て言うか……まるでお姫様みたいだ!」


 俺の誉め言葉を聞き、二人は顔を見合せ笑い声を上げた。──な、何か変なことを言ってしまったのだろうか?


「クス、カナデ君。私は元々お姫様なんだけどな?」


 トゥナの言葉に俺はハッとした。

 テンパッて完全に忘れてたぞ! お姫様にお姫様みたいって……一周回って失礼だろ?


「クスクス、本当にカナデ様は色恋方面がさっぱりですね? 少し私が手解きいたしましょうか?」


 色恋の手解きってなんだよ? 

 俺はマジックバックの中で食料を貪るミコに、フォロー入れてくれと視線を送った。


 手を止め、食べ物を飲み込んだミコは口を開いた──。


「──カナデは本当にダメダメカナ? ティアリン言うように、女心を知る特訓でもした方がいいんじゃないカナ?」


「ミ、ミコ。お前までそっちの味方なのかよ!?」


 結局その後も、上手に褒めれなかった罰として、彼女達の買い物に振り回される事になった。


 次の町はとうとう、目的地にしていたリベラティオだ。

 この時は、いつかハーモニーを含め、皆でこんな平和な日々をずっと過ごすことが出来る。

 そんな事を信じてやまなかったのだった……。

 

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