第253話 依頼達成

「──ありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん! これでお母さんのお薬、買いに行くことが出来るよ!」


 ひとしきり商品が売れ切ると、いつしか客はチリジリとなり、ギルド前の噴水広場はいつもの落ち着きを取り戻した。


 ララは売り上げを抱き締めながら涙を流し、満面の笑みを浮かべた。──うれしい気持ちは良く伝わった。しかし、こんな小さい子がお金を抱え喜んでる姿は、少々絵面らが……。


「──すみません、少しよろしいですか?」


 声のする方に振り向くと、目の前にはギルドの制服に身を包んだ女性が立っていた。──ティアがギルドから許可を取ったはずだけど……身に覚えはないが、何か問題でも起こしたかな?


「実は私ギルド者でして、名をウルドと申します。先ほど販売なされていた薬ですが……もしよろしければ、今後私共のギルドで販売させていただきたいと思いまして、お声かけさせて頂いたのですが」


 ──ギ、ギルドが? もしかしたら顧客がつくかもとは思っていたが、まさかギルドが釣れるとは……。

 しかし、ギルドが何故これを? 


「でも、冒険者なら効果の高いポーションの方が好まれるんじゃないですか?」


 流石に、緊急を要する時にガマの油ではなんともならないぞ?

 それこそ「立ち会いの中に、血止めはないか」なんて言わないといけなくなっちまう……。


「おっしゃる通りです。しかし、軽症などにポーションは高すぎてですね……特に駆け出し冒険者には手が出ません。そこで、安価で優秀な薬があれば、彼らの助けになると思いまして」


 なるほど……安価な品をギルドで取り扱うことにより、結果的に冒険者の健康に留意することが出来る訳だ。


 例え擦り傷だとしても、そのままにしておいて不衛生な所を冒険でもしようものなら、化膿することも考える……何より薬を売るその事自体、一つの商売になるしな?


「願ってはない話ですが、その商談はこの子の母としてください。今は体調を崩している様ですが、今後良くなると思いますので」


 薬を与えてすぐに完全回復は無理だろう、でも今後の話し合いぐらいは、すぐに出来るはずだ。

 病は気からとも言うし、ララのお母さんがその話を聞いて、更に元気になってくれればいいな……。


「そうですか……それでは近いうちに、栄養のあるものを持って挨拶にうかがわせて貰いますね?」


 そう話したウルドさんは、ティア立ち会いの元、ララと三人で今後の打ち合わせをし始めた。


「──ねぇ、カナデ君。ララちゃん達、これで幸せに暮らすことが出来るのかな?」


「どうだろうな? 世界は生き人、すべてには優しくないから……」


 今後は、彼女達の頑張り次第だろう。

 俺達が手を貸すことが出来るのはここまでだ。

 折角知り合えたんだ、彼女達には幸せになってもらいたいものだが……。


「──いや、出来るさ! 今もティアさんが仲介してくれてるんだぞ? 幸せになど、簡単になってしまうさ!」


「だ~か~ら! なんでお前が居るんだよ、いいからさっさと帰れ!」


 さらっと仲間内に紛れやがって……ストーキングキング、恐るべし。


 この後無事に話し合いも終わり、依頼達成と言うことでララから報酬を頂いた。

 まぁ、頂いたと言っても、事前に確保していたんだけどな?



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「──カナデ君、報酬は本当にそれだけでよかったの?」


「昨晩話し合っただろ? 俺は楽しかったし十分だよ」


 ララから頂いた報酬、それはガマの油が五つだけだ。

 トゥナの分にティアの分。ルームの分に、使うか分からないがミコのだろ?

 後は……次会った時にハーモニー渡す分だ。


 そう言った俺は、歩きながらもトゥナとティアに、一つづつ渡した。


「カナデ様……非常に嬉しいのですが、私先ほど沢山頂いてますよ?」


 その渡した張本人は、先ほウルドさんに連れられギルドに連れていかれた。

 ティアを見つけるために使った魔法が、危険行為と判断され改めて何かしらのペナルティーを受けるらしい……哀れだ。


「沢山あっても困らないだろ。それに二人とも、実はその薬な? 化粧を落とすにも便利らしいぞ?」


 昨日準備の買い物中に、ティアがこっそり購入しているのを見たら案の定、普段しない化粧を今日はしていたのだ。


 俺はココに付けてるだろ? っと意味を込め、二人に見えるように自分の唇に触れた。


「カ、カナデ君気づいてたの! 意外と見てるのね……」


「で、でもそれなら、気付いた時に誉めるべきですよ? カナデ様はすぐ見てみぬ振りをしますね……」

 

 宿への帰り道、そんな世間話をしながら歩いて行く。

 頬をうっすら染めるトゥナと、頬を膨らませるティアに手を引かれながら……。

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