第249話 演武

 俺とトゥナは、ロングソードを持ち距離を取った。

 今回はあくまでも、勝敗を決めるために剣を握る訳じゃない。人を引き付けるための演武だ。

 何より重要なことは、息を合わせる事……。


 俺は力動眼を使った。そして、トゥナが剣を構えるのと同じくして、俺も剣を構える。


 演武の内容を覚えるのに俺もトゥナも苦労したが、型は事前に打ち合わせをしてある。


 彼女が動き始めるのに合わせ、動きを先読みした俺も動き出す。

 剣をゆっくりと振るいながら、お互いに距離を詰め寄った。


「「──はっ!」」


 俺とトゥナの掛け声と共に、ガキンッ! っと剣と剣がぶつかり合いあった。

 その音を聞き付けたのか、ギルドの周辺を歩く人達の注目が俺達に向いた。──よし、出だしは上場だ!


 俺達は、互いに時計回りに回転しながら、お互いに距離を取る。体の周りで剣を振り回し、ゆっくりと詰め寄りながらもお互いに上段から斬りあう。──そして、振り抜いた剣と剣はぶつかり合い、激しく火花を生むのだった!


 周囲では「なんだなんだ? 何かやってるぞ?」と、野次馬が集まり始めた。──狙い通り!!


 お互いに剣を前に伸ばし、距離を計りながら距離を保ち回る……。

 そして「行くわよ!」っと叫ぶトゥナは、俺に向かい何度も斬りかかってきた。

 その攻撃を、何度もすれすれの所で避け、その次は俺が何度も斬りかかり、トゥナがそれを避けた。


 そしていつの間にか、それを見ていた観客たちは増え、歓声が巻き起こっていた。


「流石だな……数日間のブランクが嘘のようだな」


「カナデ君こそ流石ね、何か熱くなってきちゃったわ!」


 それには同意だ、殺し合いはウンザリだけど、競技として剣を振るう……それがこんなにも楽しいことだとはな!?


 トゥナが動き出した! そのタイミングに合わせ、彼女の剣を何度も何度も弾いていく。

  その後も剣速は上がり、避けては斬り、斬っては避けると、一進一退の攻防を繰り返す。──そろそろ頃合いだろうか?


 会場のボルテージはあがり、熱がこちらまで伝わってくる。あまり興奮させ過ぎても良くないからな、そろそろ薬の販売へと移ろうか?


 トゥナの攻撃を掻い潜り、彼女へと無理矢理詰めより大振りに剣を振るった。彼女も切り返し、剣同士を合わせ、鍔迫り合いを始めた。


「トゥナ、準備はいいか?」


「えぇ、上手に避けてよね?」


 誰にも聞こえぬよう、小声で「「1、2、3!」」と、タイミングを計りお互いに後ろに下がる。

 その際にトゥナは剣を振るうと、その切っ先は俺の右腕に霞め、俺は斬られた所を左手で押さえたのだ。


 その場でしゃがみこんだ俺は、その部分から赤い液体を流し、剣をその場に落としてしまった……。


 観客からも、心配する声が上がってきている……。その中、観客席の脇から一人の女の子が俺の元に走ってきたのだ。


「だ、大丈夫ですか? こ、このお薬を使ってください!」


 飛び出して来たのはララだ、そして差し出された薬をたっぷりと指で取り、切っ先が触れた所へと塗り込み、俺はその傷口を脱ぐって見せた。


「──あ、あれ? 斬られたところの血が、止まっていませんか?」


 野次馬に紛れたティアが声を上げた、すると観客達は「おい、本当に止まってるぞ?」「どう言うことだ?」と声を上げるのだ。


 実のところ、実際にトゥナに斬られた訳ではない。彼女に渡した剣の切っ先は刃を落としてあるのだ。

 痛いだろうが、例えしっかりと当たったとしても、よっぽど斬れることはない。

 俺は斬られた振りをして、左手に仕込んだ血のりを破いた、ただそれだけの事だ。


 そして俺は、野次馬の興味がなくなる前に「──さぁさぁ、お立ち会い! 御用とお急ぎでない方は、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」と、声を上げたのだった。

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