第248話 商売のあれこれ

 翌朝の早朝、準備を終えた俺達はララの家を訪ね、売り物の薬を回収後ララと共にギルドの前の噴水広場まで赴いた。


 広場の噴水前には、不自然な長机が置いてあり、上からは布を掛けコーディネート去れている。

 そして麻袋が別のテーブルに置いてあり、その中にはララの薬が詰められていた。


「ん~! 見事な快晴、商売をするにはうってつけな天気だな」


 俺は、ルームに縫い直し手もらったばかりの甚平に袖を通す、縫い目はしっかりと残ってしまっているが……。

 でもまぁ、これもまた一つの勲章のようなものだ。男の子は得てしてそういうものに憧れを抱くのだよ!


「──ほ、本当に、大丈夫かしら?」


「ん? この広場もギルドの敷地内らしいし、ティアには使用許可を取ってもらった。なにも問題ないだろ? むしろ、ギルドはどれだけ荒稼ぎしてるんだよ……そっちの方が気になるわ」


 トゥナが心配に思ってる内容、おそらく薬の販売方法の事だろう。

 俺は彼女の発言の意味を知ってつつも、緊張をほぐすため、わざとおどけて見せた。


 今日行う手法は、すなわち【街頭販売】や【実演販売】と呼ばれるものだ。

 デパートやショッピングモールで稀にみるアレだな?


 この世界に来て、屋台などの店舗は見たことがあるが、実際に集客の為に特設ステージを設け、目の前で実演を行っている店舗を見たことがない。

 だから俺は、日本にある一つの伝統と、テレビでよく見る販売方法を参考に、この世界風にアレンジを加え、薬を売ろうと発案したのだ。


「これなら、トゥナのリハビリにも丁度いいだろ? 俺の世界じゃ、一石二鳥って言うんだ」


 少し前の、ストーキングキングとの小競り合いの時もそうだが、この世界の人は、まず娯楽に飢えていると言っても良いだろう。


 大きな争いから、二百年あまりしか立っていないわけだ。建設機械もなく、世界はここまでの復興を遂げているものの、やはり生活水準は低く、娯楽まで手が回らないのだと、俺は踏んだわけだ。

 

「う~ん……カナデ君が相手なら、リハビリとしては十分すぎるほどだし、申し分ないわよ? でも、見世物になるのは気が引けるわね……」


 しかし、生活水準が低いと言うことは、即ち財布の紐が固いと言うこと……。

 だからより実践的に、より必要性を感じる為に、まずは俺とトゥナの演武をり行い。集客からの実演に移るつもりだ。


「まぁ、そう言うなって、俺も嫌なんだから。でもララのためだろ?」


「うん……そうね、わがままは言ってられないわね」


 今回は演武と言ったものの、中盤から後半に関してはほぼ実践に近い方法で行う。

 勿論、普段使っている無銘やレーヴァテインを使うわけではない。

 得物は昨日、鍛冶屋を荒し……もとい。交渉の末一本をおまけしてもらった二振りのロングソードだ。


「じゃぁ皆、段取りは分かってるな?」


 事前にトゥナ、ティア、ララの三名には仕事を割り振っている。共演者に仕掛人、サクラと言った所か?

 今回限りの方法にはなるが、これを機にこの薬の固定客を作ることが出来れば理想だ。


 薬自体は安価で販売できるし、効果も地球にあるあるものと酷似している。

 鑑定眼で確認したから間違いない!


「いくら良いものでも、周りに認知されないと世に出回ることはないんだよな……」


 商売とは基本、需要と供給で成り立ってはいる。しかし、認知されないとその土俵にも立てないのだ。

 ララの持っていた薬がその代表例だろう……。──しかしそんなの、粋じゃないだろ?


「じゃぁ位置についてくれ、この薬をなんとしても売り切るぞ!」


 俺の掛け声に、一同は「「「お~!」」」と、掛け声を上げた。

 こうして、俺達エルピスによるララの薬売り依頼が、今始まったのだった──。

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