第247話 疑惑

「──カナデ君も、ずいぶん変わったわよね」


 ララの家に向かう中、トゥナが唐突に話題を振ってきた。──俺が変わった?


「自分ではよく分からないな。そうなのかな……?」


 そんなつもりはないけど、きっと自分では分からないものなのだろう。

 そんな俺の顔を、ララの手を繋ぎ横を歩くティアが覗き込む。


「そうですね、一昔前ならこの様な状況で自ら動くなど考えられませんでした。人を脅迫して無理やり動かす事はあっても、純粋な人助けなど……」


「──おい俺、酷い言われようだな?」


 そう言われると、確かに自覚はあるな……。

 当時を思い出しても、自らこんな正義の味方みたいな事は、したためしはない。


「でも、結局協力しちゃうのよね。そんなお人よしな所、私は好きだわ」


「そうですね。私はなんだかんだ、お節介を焼くカナデ様も好きですよ? 結局見過ごす事が出来ないって意味では、変わっていないかもしれませんね?」


 あの……意図的にやってるのかは知らないけど、好き好き連呼しないように。

 ほら、ララが「このお兄さんがモテるの? なんで?」みたいな顔をしてるだろ。


「──ここだよ、ここが私のお家!」


 スラム……とまでは言わないが、そこはこの町の貧困層が住んでいるのだろう場所だ。ララの家は、そんな建物が並ぶその一角であった。


 俺は建物入る前にふと思い立ち、鑑定眼でララと建造物を鑑定しておいた。──安心した、彼女の母の病は衛生面の問題でも、感染症でもないようだ。


「ただいまママ!」


 ララは、立て付けの悪い扉を勢いよく開ける。

 家の中には、藁の上に布を引き、ソコで寝ている女性の姿があった。


「ゴホゴホッ! お帰り……なさい、ララ。この方達は……?」


 彼女がララの母なのだろう。少しの痩せこけてはいるものの、何処か面影を感じられる。──なるほど、ララも将来は美人になりそうだ。


「私はギルドの関係者の者です。ララちゃんからご相談を受けまして、お作りになられた薬の販売を、私共が協力することになりました」


「そ、そのような……ご迷惑を、ゴホ、ゴホゴホッ!」

「──お、お母さん! 大丈夫?」


 ララは起き上がろうとした彼女の母を布団に寝かす。──かなり苦しそうな咳だな……。

 本当に状態が良くないようだ……。一応彼女の容態も確認しておこうか?


「──鑑定!」


 病名は……ダメだ、聞いたことがない。体力がかなり減ってるな?

 しかし、医師の診断通り専用の薬を服薬すれば、治るようだ。当初の予定通り、まとまった金と今後の仕事さえあれば、彼女達は助かりそうだな。


「何もおもてなしは出来ませんが……どうぞおくつろぎ下さい……」


 精魂共に消耗しているのだろう……それだけ言うと、ララの母は意識を失うかの様に眠ってしまった。


「それでララ、先ほど言っていた販売用の薬ってどの程度あるんだ?」


 するとララは「こっちだよ」と、俺の手を引き木造の仕切りの裏に案内してくれた。


「そこの押し入れの扉は開けないでね? その……お薬の秘密が居るから……」


 居るって……まさか、奴がこの中に居るのか? ってことは原料は奴の脂汗百パーセントか? 

 俺は鑑定と地球での知識もあって、原料の予想はついていた。

 しかし、製法についてはこれは深くは追求しない方が良さそうだ。


 そして目の前には、その何かを原料にした、二百を越すだろう薬が山積みにされていた。


「中々多いな? 明日の事になるが、持ち運びの為に一度預かることになるけど大丈夫か?」


 この量だ、マジックバックで運搬した方が何かと便利だしな?

 しかしそう言ったものの、目の前でそれが消えていったらやっぱり心配だよな…… この薬はこの子達の生命線でもあるんだ。


「でも……信用するのも難しいよな? やっぱり目に見える方法で運搬……」

「──いいよ! お兄さんを信用する!」


 そ、即決? 今日あったばかりの、見ず知らずの俺達を信用か……。きっと、藁にもすがる思いなのだろうな?


「そうか……信用してくれてありがとうな。売り物はまた明日改めて取りに来るよ。今日は準備もあるしな? 必ずお母さんの薬代を稼ぐから……明日はララに働いて貰うから、頼んだぞ?」


 品物の確認を終えた俺は、この後ララとの簡単な打ち合わせを終え、彼女の家を出ることにした。

 先ほど言ったように、少々準備もあるしな。


「──ティア、彼女達を助ける為に少しお願いがあるだが?」


 ララの家を出た俺達は、早速明日の準備に動き出した。


「え、えぇ。出来る範囲になりますが、それは構いません……で、でも……」


 俺の事を見ながら、何か心配そうな顔を浮かべる。何か、気に病むことでもあるのだろうか?


「ティアさんも疑問に思ったのね? いくらカナデ君が変わったと言っても、こんなにも率先して人助けをするなんて……裏があるに違いないわ」


 ──ひ、酷い言われようだ。


 別にただ、今回の件は純粋にあの子達が可愛そうに思えて……確かに少し不謹慎だけど、比較的平和な依頼でホッしているところはあるが。


「ハーモニー様の事ともあります。もしかして──カナデ様はロリコンなんですか!?」


「──おい、ちょっとまて!」


 なんだ、この展開? 決して俺は、ロリっ子大好き! っとかじゃないぞ? 何とかして誤解を解かなければ……。


「誤解されそうだから言っておくが、俺はロリコンじゃない! さっきもどちらかと言えば、お母さんの方が好みだったからな!」


 俺は、身ぶり手振りを加えながらも必死で訴えかけた。


「──最低ね!」

「──最低ですね!」


 しかし、逆効果だったようだ……。


 俺はその後、必死で彼女達のご機嫌をとり、明日の商売に向けての段取りをするのであった。

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