第250話 街頭販売 口上

 俺は長机の後ろへと歩き、昨晩作ったばかりの扇子を手に取った。


 どうやら、突然の宣伝文句に、野次馬は違和感を感じたのだろう。

 しかし、これも想定内だ。俺はまくし立てるように宣伝の続きを話した。


「実はこの幼子が俺に塗った薬、エルフが住まうその先にある、山の奥地、そのまた奥地に生息する、あの魔力を秘めた大ガマ、四六の大ガマの汗を抽出! それを煮込みに煮込み、秘伝の製法にて作られた軟膏なんこうだ!」


 その台詞を聞いたとたん、察しの良い者が居たようだ。「なんだよ、ただの商売か?」と声を上げ、その場を去ろうとした。──今のタイミングは不味い、他の人もつられてしまう……何とか止めないと!


「──待ってくれ待ってくれ! 投げ銭や放り銭はもらわないよ? なに、見るだけなら誰も損はしない……そうだろ!?」


 声を上げ、去ろうとした客は「まぁ確かにな? 面白いものも見れたし、こんな商売も面白そうか?」と再び野次馬の列へと戻って行く。


 ──よし、食いついた!


 街頭販売で重要な事、無理な引き留めはせず、その上で流れを断ち切らせない事。

 そして何より、売り手側の熱を感じとれば、買い手側もつい見いってしまう。恥ずかしがるなんてご法度だ!


 野次馬の反応を見た俺は、手にもった扇子で、長机を──カンカン! っと二度叩いた。


「さあさ、改めてお立ち会い! ガマは家の縁の下や、流しの下にもいると言う御方も居るだろう。しかし、それは俗に言うオタマガエル、ヒキガエルと言って、回復薬としての魔力や効能はない! 俺が持ち出したるは、かの有名な四六の大ガマ! このガマ、オンバコという露草を食らい成長をする世にも珍しいガマだ!」


 観客からは「そんなガマ知ってるか?」「いや、始めて聞いたな?」などの声が上がっている。

 疑問の声は重要だ、ただの野次馬が俺の話を聞き、客になりかけている証拠だ。


 扇子を閉じたまま前に付きだし、客を一望しながら指していく。


「──実はこの薬、あのかの有名な勇者様の子供、そのまた子供が愛用し、絶賛したと言われれている軟膏! どうだいどうだい? 興味が湧いてきただろ?」


「「「おぉ~!」」」


 会場に一体感が出てきたぞ? 昨日の打ち合わせでこの世界向けにアレンジした甲斐があったみたいだ、このままぐいぐいと心を鷲掴みにして……。


「──で、でも、息子のそのまた息子って孫だよな? それって微妙じゃないか?」


 ──おい、誰だよ微妙って言った奴! ちょっと傷ついちゃっただろ!


 心で涙を流すも、俺の話は止まらない。言葉で人を惹き付けるには色々な要素がある。

 内容も然ることながら、リズムや間も非常に重要なのだ!


 俺は扇子で、カンカンカン! っと三度長机叩いた。


「さあさ、更に更に、お立ち会い! 改めて紹介だ! ここ差し出すは、この幼子が持ち寄ったこの軟膏。名をガマの油と言う。この世に回復材は数多あまたあれど、これ程安価で効果の優れているものは、見たことがない!」


 実はこの謳い文句、あながち嘘と言うわけでもない。

 ガマの油、耳後腺および皮膚腺から分泌される液体を蟾酥せんそと言い、成分には強心作用、鎮痛作用、局所麻酔作用、止血作用が含まれている……っと鑑定眼で確認した。


「効果は先ほど見た通りだ! どうだい? 御一つ買っては行かないか?」


 会場からは返事がなく、急にお客様は黙ってしまう。──流石に疑ってる様だな? そろそろ、あれをやるタイミングだな?


「──ん? なに、信用できない? さっきのは仕組んだんじゃ~無いかって?」


 お客同士で向き合い「だって……なぁ?」と声が沸き起こる。

 それはそうだろう、俺が所見で同じものを見たとしても同じことを思うからな?


「わかったわかった! それじゃぁこれでどうかな? そこのお姉さん! 先ほど俺を斬った剣を貸してはくれないか? なに、盗んだりはしない。後で薬を一つサービスして御返しするから、安心してくれよ──!」

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