第231話 レクスボアー討伐

 空に投げ出された俺は、木々を無銘で次々と切り落としながらレクスボアーの視点まで浮き上がる。──体感的には……三階建ての建物より少し高いか? まったく、とんでもない大きさだよ。


 周りには障害物も何もない、流石に相手も俺の存在に気付いたようだ。


「よぉ、化け物……。悪いけど、今から討伐させてもらう」


 まるで俺の発言に怒ったかのように、レクスボアーの体……特に腕力に力が入ったのが情報として俺の視界に映し出された。


「三ノ型 残心!」


 拳を振るわれるより先に、俺は自らの分身体を散らばらせ、それに紛れ込むように飛行した!


 レクスボアーはそれを見ても、お構いなしに右の拳を突き出しす。

 拳は空気を押し出し、轟音と共に振るわれたのだ。──しかしその強力な一撃も……あたらければどうってこともない!


 でかい図体は武器であると同時に弱点にもなる。俺は分身体を危険な魔物の視野内に飛ばしていた。

 その為、腕で出来た死角から容易に攻め込むことが出来たのだ。


 呆気なく胸元に飛び込むと、鞘から無銘を引き抜いた。

 そして、無銘を使った抜刀術は、意図も容易く鎖を斬り人質達は落下をしていく。


「ハーモニー、今だ!」


 俺の掛け声と共に、ハーモニーがユグドラシルで人質のエルフを掴み、無事救出した…………かのように思われた。


 しかし残念な事に、陽動に使った分身体の効果が切れたのだ。──しまった! 想定していたより消えるのが早い!

 

 レクスボアーの視線は、声を上げた俺では無くユグドラシルで捕まれたエルフに向いていたのだ。


「くそ、何とか奴の動きを止めないと!」


 俺はレクスボアーの胸元付近から、急いで空を飛ぶ。

 危険を顧みず奴の目の前に移動したのだ。そして、挑発するかのように声をかける。


「おいおい、トンだブタヅラらだな。豚だけにか? 忠告してやる、眩しい物を見るときは明るい部屋で離れて見ろよ? 」


 無銘を抜き、自分の手前で構える。そして俺は、レクスボアーの目の前で目を閉じた。レクスボアーは、俺の姿を見て当然の様に腕を振るたのだった。


「──灯心とうしん 簾刃すだれば!」


 無銘からは目が開けれないほどまばゆい、ストロボの様なが発せられた。

 ワイバーン戦で披露した、異世界仕様のフラッシュグレネードの完成版だ。


 光を放出する時間を短くし、魔力消費を押さえる。

 瞬間的に光量をあげ、それを瞬く間に三度点灯させる技だ。


 目の前で強烈な閃光を見たレクスボアーは、突然の出来事に俺に振るっていた手で目を押さえ、体のバランスを崩し転倒した。

 そして、木々をなぎ倒しながらも、その場でのたうち回りだしたのだ。


 人質となったエルフが無事なのを確認し、俺は大声を上げる。


「キサラギさん!」


「──承知しておる! 皆の者、手番じゃ! 手心など要らぬ!」


 キサラギさんの足元には、巨大な魔方陣が敷かれた。それと同じくして、エルフ達は次々と魔法詠唱を始める。

 のたうち回るレクスボアーが倒した木々が、魔法壁まほうへきに引きずられるように奴の元に集められていく。


 キサラギさんが手を動かし、何かを集める仕草をしている事から、この現象は彼女の仕業だろう。


「──す……すげぇ。力動眼でみると、こんな風になっていたのか。これがエルフの魔法……」


 レクスボアーと無数の木々は、四方からの魔法の壁に納められた。

 そしてそれと同時に、エルフ達の魔法詠唱も終わったらしい。


 エルフ達は一斉に「「「──フランマ!」」」っと叫び声をあげた。

 すると奴の周辺に火が上がり、それは巨大な火柱となって昇っていく。


 ──森の中で火かよ!


 しかし、どうやら考えられの事だったらしい。

 火柱は、魔法の壁の中でのみ轟々と燃え上がり、火の手が森移ることは無かった。


 それにしても、密封空間での炎の魔法か……。


 力動眼でよく見ると、下から取り入れた空気が壁内にある高温の空気を押し上げている様だ。──煙突効果! かなりの高温だぞ……あれじゃぁ、ひとたまりもなさそうだな。


 現に、力動眼に映し出されていたレクスボアーの姿は、いつしか見えなくなっている。──思ったより呆気なかったな……。


 俺が手を合わせ、軽く黙祷もくとうする中、ミコの『豚肉、食べ放題かな!』っと喜ぶ声がした。

 しかし残念ながら、あの様子ではチリすら残らないだろう。


「さて……魔力が切れて落ちる前に、ハーモニーのところに戻ろうか」


 そんな独り言を呟く中、力動眼が森の中で村の反対に向かい動く何かを映し出した。


「ん……あんなところに人がいるのか……?」


 俺は何となくその人影が気になり、空を飛び後を追うことにしたのだった。

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