第230話 レクスボアー討伐開始

「──あ、カナデさんが帰ってきました~!」


 ハーモニーが俺に気づき、手を振っている。

 先ほど居た場所からは、さほど移動してないようにも見えるが……。


「待たせたな、奴はどうなってるんだ?」


 俺はそう言うと木々の隙間から、レクスボアーが見えるところを探しだし奴の状況を確認した。


「あ、あれはいったい……?」


 俺の視界に映し出されたのは、なんと巨大な豚の様な猪が、見事なまでのパントマイムを披露している光景であった。

 実際にそこにあるかのように、空中にある壁を押したり殴ったりするその姿は、大道芸人も真っ青であろう……。


「おぉ、奏か。準備が整ったのじゃな? あれは不可視の魔法障壁で覆っておるのじゃ。──ところで、連れて行った男共はどうしたのじゃ?」


 な、なんだ。本当に見えない壁が存在するのか? 流石魔法、何でもありだな?


「あぁ、ダイロンさんならあっちで満足そうに転がってるぜ?」


「ほぉ! あのダイロンが満足するとは……ぬしらは一体、どんなプレイをしておったのだ?」


 ──おい、チビッ子も見ている。プレイとか言うのは止めてもらおうか?


「カ……カナデさん、大丈夫ですか?」


 ハーモニーが俺を心配する。

 プ、プレイの事……ではなさそうだ。視線が俺がたすき掛けをしているシャツに向いている。


「あぁ……大丈夫……っとは言いがたいが、あの時よりは随分ましだ。今回は筋肉の宴じゃなかったしな?」


 不思議なもんだ。同じ老廃物ろうはいぶつまみれでも、船上の筋肉達と比較したら全然ましに感じるんだからな?

 って、そんな言い方したら船長達に悪いか。


「「「キサラギ様、また砕けます!」」」


 空に白いヒビが入ったかと思うと、硝子が砕ける様な音と共にレクスボアーが動き出した。


「見ての通りじゃ。作っても作っても壊されてしまう。ジリ貧というやつじゃの。奏よ、準備が整ったのであれば、早々に頼む……このままでは攻撃に回すための魔力が無くなってしまう」


 次の壁にぶつかったレクスボアーは、苛立ちを見せ再び壁の破壊を始める。

 実際に、あれがどの程度の魔力を消費する間は分からない。

 しかし、エルフ達の中には、眠ってしまっているものもちらほらと見える。──これは急いだ方がよさそうだ。


「あぁ、わかったよキサラギさん。ハーモニー、奴のきょをつきたい。イグドラシルで、俺をあいつの目の前まで飛ばすことは出来るか?」


 いきなり飛んでいっても良いが、相手の攻撃範囲は広い。

 ばか正直に突っ込むよりは、緩急をつけた動きの方が良いだろう。

 それに、俺もシャツの魔力をなるべく温存したいしな?


「い、いえ。出来たとしても、精々上に放り投げることぐらいしか~……」


「いや、十分だ。そこからは俺が飛んで、奴を撹乱しながらエルフ達の鎖を斬る。ハーモニーは俺が斬った後、落ちてくる彼等の救助も頼む! ミコ、衣のコントロール、任せたからな!」


『任せるカナ!』


 鑑定眼を使い、一応ステータスの確認をした。──一撃でも貰えばやばいな……しかし、十分に避けきれるであろう速度だ。

 それだけ確認すると、今度は奴の動きを見極めるために力動眼に切り替えた。


「奏よ、障壁が壊れるぞ!」


 空に小さく亀裂が入る。割れるのも、時間の問題だろう。


「分かった! 次砕けると同時に突っ込む、ハーモニー大役だけど任せたぞ!」


「はい~!」


 ユグドラシルは俺の体に巻き付く。それは一本、二本ではない、何本も編み込まれた光のロープの束だ。


 魔法の壁は音をたて砕けちり、レクスボアーが前進を始めようとした。


「──今だ! ハーモニー!」


 俺の掛け声と共に、ユグドラシルが作り出した光るロープの束は大きく波を打ち、俺は空高くへと舞い上がったのだった。



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