第228話 覚悟

「そ、そうだな? 例えば空を飛ぶことが出来れば……」


 心当たりはあったものの、つい誤魔化してしまった。──考えろ! 他にも手段があるはずなのだから、わざわざアレじゃなくてもいいはずだろ?


「……トゥナさん、今頃苦しんでいますよね~。早く助けてあげたいものです……」


 ハーモニーそれは卑怯だぞ……。

 しかし彼女の言う通りだ。何を敬遠する必要がある……大切な仲間がが苦しんでいる、それだけで己が身を犠牲にする価値があるじゃないか。


「お、思い出した。空を飛ぶ方法に一つだけ、心当たりがある……」


「──それは本当か!」


 俺の発言にキサラギさんが食いついた。──アレがエルフ達の希望の光となるとは……。結果を見たエルフ達はどう思うだろうか? いや、それどころではない! もしアレをするのであれば、時間が必要になる。


「はい! その為には人手が必要なんだ。だから、エルフ方から四人ほど女性を……」


 自警団から女性を希望した。

 別に女性が良かった訳じゃなかったが、男よりはまだ幾分かましだと思ったのだ。

 しかし俺は発言を終える前に、ハーモニーユグドラシルの刃先を覗かせた。


「い、いや違った。四名ほど男性の力を貸して貰いたい」


 自警団の男達は「自分が行く!」っと各自立候補する。

 今からさせる作業の事を考えると、申し訳なさで一杯になった。


「本当に飛べるのじゃな? ぬしを信じるぞ?」


「あぁ、激しい準備になる……なるべく人選は屈強な男にしてくれ」


「相分かった。ならばダイロン、ぬしも含め他三名を選出するのじゃ。奏の指示に従い、協力を惜しむでないぞ!」


 流石キサラギさんだ。

 偶然だろうが、真っ先に彼を選ぶとか……分かっている。


「分かりましたキサラギ様! 奴の指示を仰ぐのは些か気に入りませんが、しかし同胞のため! この身に変えても命令を遂行します」


 理由は分からないが、どうやら彼には嫌われているようだな? ダイロンは、自警団の男から次々と、三名を選出していく。


 どうやら話しはまとまったようだ。

 そんな中、浮かない顔をしたハーモニーが俺に近づいてきた。


「カナデさん……ごめんなさい。アレをカナデさんがお嫌いなのを知っていたのに~……」


 彼女はアレを目の前で見てたからな。流石にいつものように憎まれ口は叩かないようだ。

 自分を悪役にしてでも、トゥナを助ける為に俺のケツを叩いた訳か……。

 そんなの、誰も怒ることなど出来ないだろ?


「気にするなよハーモニー。今はトゥナの為にも、この人達の為にもそんな事をいってる場合じゃないしな? お陰で目が覚めたよ」


 泣きそうな顔をしていたハーモニーは、それを聞き少しだけ安堵の表情を浮かべた。

 嫌な役をさせてしまったな。


 また一際大きな地響きが鳴った。レクスボアーは今尚いまなお、木々をなぎ倒しながらエルフの集落に向かって進んでいる。──そろそろ急いだ方が良さそうだな。


「じゃぁハーモニー、キサラギさん。少しだけ時間を貰いたい、少しでもあの巨大猪の足を止めておいてくれ」


「承知した。わっちらは時間稼ぎに徹しよう……。奏よ、集落の命運はぬしに任せたぞ」


 あぁ、言われるまでもない!


「じゃぁ、行ってくる。なるべくすぐ、戻ってくるからな? 安全第一で頑張ってくれ!」


 俺は選出されたメンバーを見つめる、気合いを入れるために発破はっぱをかけることにした。


「さあ行くぞ、俺達が攻略の鍵になる! お前達はこの後、悲惨な目を見るだろう……しかし、この集落を守れるのは俺達だけだ、覚悟を決めろ!」


 ──まぁ、一番悲惨な目に遭うのは俺なんだけどな?


 俺は緊張した面持ちのエルフのメンバーを引き連れ、自警団から少し離れることにした。ここでは色々と人目をはばかられる。

 この先は見るのも地獄、見られるのも地獄の光景なのだから……。


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