第227話 誰と心得る!
俺達は慌てるように魔物がいる場所まで走って向かう。
探すのはさほど大変ではなかった、奴の行く先々で木々が倒れていくのだから。
「なぁキサラギさん! あんな化け物と戦う術はあるのか?」
俺はこの世界に来て嫌と言うほど痛感している。
巨大な魔物とは、その大きさが既に驚異である……っと言うことを。
「エルフを舐めるでない! 小さな集落とは言え、魔法を使わせれば中々に粒揃いじゃ。皆が力を合わせれば、王族種と言えど大した問題ではない!」
な、なるほど……エルフは魔法に長けている種族なのか?
確かに遠距離攻撃に秀でていれば、大きさのハンデキャップは概ね解消されるかもな? 俺はそう思いハーモニーを横目に見た。
「何ですか? カナデさん。前を向いて走らないと転倒させますよ?」
──させるのかよ!
しかし、その話をしている最中、ダイロンの様子がおかしい。何か言い出しにくいことでもあるような……。
「ダイロン、様子がおかしいようじゃが、何を隠しておる?」
キサラギさんも同じことを思っていたようだ。
様子がおかしいと言っても、先程のような変態チックな意味ではない。
彼は、俺達に伝えていないことがある。そんな気がした。
「キサラギ様の言うように魔法が使えるのなら良いのですが……実は奴に、エルフの民を二人ほど人質に取られているらしいのです……」
「魔物が人質? それ程の知能を持つ魔物など、極一部のはずじゃ!」
木々隙間から、対象の魔物が見えた。
「──確かにあれじゃぁ、魔法をポンポン撃つわけにもいかないな……」
エルフの人質を鎖のようなもので縛り上げ、あろうことかレクスボアーは首からそのエルフ達を下げていたのだ。
上半身に向かい撃ったら、あの二人に当たる可能性も十分考えられる。
「うむ、どうしたものかの……あれほどの巨体、弓だけで倒し切れるものでもないしの……」
「じゃ、じゃぁ人質の居ない足元をどうでしょうか~?」
まぁ、上半身が攻撃できないなら下半身を狙えばいい。確かに誰しもがそう思うだろう……。
「
キサラギさんの言う通りだ。あの巨体が倒れ、人質のエルフが潰されようものならまず助からないだろう。
レクスボアーに近づくと、目の前には既に武装したエルフ達が二十人近くいた。しかし、彼等も今の状況に手を子まねいている様だ。
「キサラギ様だ! キサラギ様が来たぞ!」
この集落の自警団らしきエルフは、キサラギさんを見つけ安堵にも似た声を上げる。彼女には余程の信頼があるのだろう。
しかし、俺を見つけたエルフ達は「何でキサラギ様が人間と居るんだ?」と口々に不満を口にするのだ。──この疎外感、来るものがあるな?
「皆の者、静まるのじゃ! ここにおる者を誰と心得る!
キサラギさんが何処かで聞いたことのある台詞を言うと、エルフ達は地面に
──っておい! キサラギさん、あんた何してくれてるんだよ!
キサラギさんは俺を見ると、してやったりと悪戯な笑みを浮かべた。──こ、この人、実はSだろ!
エルフ達は頭を垂れたまま、どうやら俺が何か口にするのを待っているようだ。──エルフ達の中でじいちゃん、どれだけ偉大なんだよ! 本当勘弁してくれ……。
「オホン……」と咳払いをすると、一同が俺に注目した。
もう後戻りは出来ないようだ。
「あんたらの同胞のエルフの救出、是非俺にも協力させてくれ! 皆で必ず助けようじゃないか!」
俺の一言でエルフ達は沸き上がった。
こいつら、とんでもない手のひら返しだ!?
それにしても、これも成長なのだろうか? 人に注目されることに慣れてきてしまっている自分がいるぞ……。
「奏よ、言質は貰ったぞ? さあ、誠心誠意働くがよい!」
「分かってますよ……元よりそのつもりです」
ここで評価を上げないと後に差し支えるかもしれないしな。致し方ない。
さて、それにしても今の状況を覆すような、何か打つ手は無いのか……?
「うむ……しかしこんな時に、空を飛ぶ魔法などあれば、あやつらを助けることも容易じゃと言うに!」
キサラギさんから嫌な単語が聞こえた。
それは聞こえてはならない単語であり、思い出したくはない過去が鮮明に脳裏に映像化される。
そして、背中には小さな少女の視線が刺さるのだ。
「そうですね~。もし空飛ぶことが出来れば、あの高い所で囚われているエルフ達を助ける事が出来るかも知れませんね~。ね、カナデさん?」
ハーモニーが言おうすることが理解できてしまった……。
誠意を見せるって、そう言うことなのだろうか?
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