第226話 エルフのイメージ

「あ、あの~ハーモニーさん? 少々決断が早過ぎやしないですかね?」


 俺の目の前では、とても可愛らしいチビッ子……ハーモニーが両手を広げ、抱っこして! っとポーズをしているのだ。


「し、仕方ないじゃないですか~! キサラギ様の命令です。わ、私も別に、やりたくてやるんじゃないんだからね!」


 ──なんでツンデレ口調なんだよ……。


 しかし、キサラギさんが目を光らせている……拒否するわけには行かないな。こんな覚悟も必要なのか?


 俺は致し方なく、ハーモニーを抱き上げた。

 するとキサラギさんは、事もあろうに何処からかロープを出して俺達を両手を自由にした状態で、胴体同士を縛り付けたのだ。そして俺の手には謎の棒が渡された。


「カ、カナデさん……そんな悲しそうな顔をしないでくださいよ~。そこまで嫌でしたか?」


「いや、違う。大丈夫だから」


 これだけピッタリと密着しているのに、柔らかいものが当たってる感触がない。

 それが何故か泣けてきただけだ……。


「さぁ奏よ緊急事態故、早く行くのじゃ。ぬしらの世界では吊り橋効果と言うたかの? 気張るのじゃ、少年」


 ──何をだよ!


「なぁ……その情報源って誰なんだよ、まさか?」


「──あぁ、響きじゃ」


「くそぉぉぉ! 聞きたくなかった~~!」


 それだけ叫ぶと、俺は諦めるように棒を使いロープを下っていった。


 景色が良いなんて物ではない。棒がロープを擦る音と共に、パノラマの世界が広がるのだ。

 視界が三百六十度見え、足が地面につかない絶叫マシーン乗っているような……いや、安全性が保証されていないから、その程度の恐ろしさではない。


「カ、カナデさん! 絶対に手を離さないで下さいね。絶対ですよ? 絶対ですからね~!」


 ハーモニーもよっぽど恐ろしいのだろう、俺に必死に抱きつきながら、どっかで聞いたことあるような台詞を言う。


「そんな振り入らね~~!」っと叫びながら、俺達は中間点位に差し掛かった。


 危機的状況にも関わらず「ピューっカナ! ピューっカナ!」と喜びの声を上げるミコ。

 しかし今回に限っては、流石に構うことが出来ない。


「──ちょ、ちょっと。これどうやって止まるんだよ!」


 普通、中盤から後半にかけて失速するものだろ?

 しかし、張ってあるロープの角度が急すぎる。中間を過ぎても、ロープにほとんどたるみは無く、明らかに速度が然程落ちない。──スピードが出すぎている!


「ハーモニー悪い知らせだ、このまま行くと縛ってある木にぶつかる。ギリギリになったら飛び降りるからな? 怖くても漏らすなよ!」


 それだけ言うと、木に衝突しないギリギリの距離を予測し手を離した。

 ハーモニーを抱き抱え、飛んだ先には何本もの枝が道を塞ぐ。


 枝を足場に何本も折りながら、地面へと降下していった。


「ハーモニー、ユグドラシルだ!」


 俺の声を聞いたハーモニーは、ユグドラシルを何本かの木の幹に伸ばし。俺はイグドラシルの輝くつたを引っ張り、落下の勢いを殺した。


 負荷が大きかったのか、将又はたまた急造品の蔦は脆かったのかは分からないが、蔦は耐えられず切れてしまった。


「──カナデさん! もちません!」


「大丈夫だ! これだけ減速できれば!」


 そう言うと俺は、ハーモニー抱えたまま二階建ての建物程の高さ位から、地面へと無事に着地した。

 足が衝撃で痺れるものの、十分余裕が感じられた。──こ、こんな形でステータスの恩恵を感じる日が来るとは……。


 ハーモニーと結ばれているロープをほどき、彼女を地面に下ろすとその場で座り込んでしまった。

 よっぽど恐ろしいのだろう……。


「──ぬしらも上手く降りられたようじゃな。流石は響の孫と言ったところかの」


 上空からキサラギさんの声がする。上を見ると、彼女は軽々と木々の上を飛び移る様に移動していたのだ。


 枝から飛び降り俺達の前に降りたキサラギさんは「どうじゃ、中々に刺激的な経験だったはずじゃ」と美麗びれいな花の様な笑顔を向ける。


「いや……死ぬかと思いましたよ。所でダイロンさんは?」


 俺の問いかけに「あそこじゃ」っと上空を指さした。

 そこには、クモの巣に引っ掛かり身動きの取れないダイロンさん姿があった。


「パンメガススパイダーの巣じゃ。最後まで手を離さず行くと、あ~なるようにできておる」


 あ、哀れだ……。


 頭上ではダイロンさんの「た、助けてくれ! 蜘蛛が、蜘蛛が来てる!」の叫び声がする──。



 ──その後、少々手間取ったが、俺達はなんとかダイロンさんを地上に下ろした。


「さ、流石キサラギ様ですね。こんなものをこっそり作るとか……初見であれは、ご褒美が過ぎます……」


 こっそり作ってたのかよ!

 後何言ってるんだこいつ? イケメンが台無しだろ。


「うむ、お忍び用じゃ。まあ、今回ばれてしまったからの、新たに考えねばならんな」


 ダイロンはそれを聞き「通りですぐ行方不明になるはずだ……」っと、謎の納得をしたのだった。

 

 俺の中のエルフのイメージが次々と壊れて行く……エルフってもっと可憐で知的で、奥ゆかしいものだと思っていたのだが。


 ──ズシン!


 地響きがなり、森の中の中腹辺りの大樹が急に倒れた。おそらく、あの辺りに奴が居るのであろう。


「呆けた事を言うてる場合ではないの。ダイロン、早く案内するのじゃ!」

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