第224話 敵襲

「な、何でなんだ! キサラギさん頼むよ!」


 彼女の助けが受けられなければ、トゥナを助ける方法をまた探し回らなければならない。

 そうしたら助けるのに、間に合わないかもかもしれないじゃないか……。


「許せ! エリクシルは、渡したくても渡せる物では無いのじゃ!」


「それってどういう意味なんだ!? 理由があるなら教えてくれよ!!」


 頭ごなしに渡せないって言われても、納得できるわけないだろ?

 トゥナの命が掛かってるんだ……俺達が諦めたら、彼女が。


「──キ、キサラギ様大変です!」


 俺達の間に割っては居るように、突然俺をここに連れてきたエルフの男が現れた。──こんな時に何なんだよ!


「何事じゃ! 客人がおるのだぞ、場をわきまえんか!」


「それどころでは無いのです。集落付近に……敵襲です!」


「なんじゃと? 何故侵入を許した! 幻惑魔法があるであろう!」


 幻惑魔法……? って言うのは良く分からないが、キサラギさんもあのエルフ男も、様子がおかしい。ただ事では無いのだろう?


「ぬしらすまないが、緊急の用向きじゃ。話は後ほどにしてくれ」


 ──なっ!


「そんな、時間が無いんだ! トゥナは苦しんで……」


「──静まれ! ぬしの爺様はもう少し冷静であったぞ?」


 うっ……確かにここでキサラギさんを怒らせても状況は悪くなる一方か。

 彼女がこの集落の長なら、この集落の人々助けるのを優先して当然だ。


「すまぬ、響の名を出すのは卑怯じゃな。案ずるでない、その娘にはまだ時間がある。……少々訳ありでな、わっちはその症状に詳しいのじゃ」


「──本当か? 本当なのか!?」


 胸の支えが少しだけ取れた気がした。

 今まで苦しそうなトゥナしか見ていなかったからな……。死ぬかもしれないと聞いて、つい焦っていたみたいだ。


 かといって、これっぽっちも安心出来ないのは事実。苦しんでいる彼女を一刻も早く助けたい、その気持ちは変わらないのだから。


「それに関しては、わっちの名を賭しても保証しよう。その娘を助けたいのじゃろ? どうじゃ、ぬしらの助けがあれば、より早急に事を終えることができる。手を貸してはみぬか?」


 足元につけこまれた気もするが、致し方ないか……ここで誠意を見せれば、エルクシルの事も考え直してくれるかもしれない。


「分かった、ハーモニーもそれでいいか?」


「はい、聞かれるまでもありませんよね~?」


 彼女も同意らしい、どんな相手かも分からないのに迷いもなしかよ。

 よし、トゥナを救うついでにこの集落も救ってやろうか!


「キサラギさん。貴女達を助けたら、もう一度納得できるわけ話を聞かせてくださいよ?」


「相分かった。ならば、わっちに着いてきてくれ」


 俺達は、キサラギさんについて部屋を出た。

 彼女が最上階の広間の壁の一角を押すと、壁に切れ目が出来る。

 どうやら、隠し扉になっているようだ。


「こっちじゃ!」


 扉の先には巨大な木の枝と、青空が広がっていた。

 人が乗っても大丈夫な強度はあるものの、手すりなどは一切無い。

 キサラギさんは、それでも何食わぬ顔で枝の上を歩いていく。

 俺とハーモニーも、恐る恐る後に着いていった。


「キ、キサラギ様。いつの間にこんな場所をお作りで……」


 ──お、おわっ! お、驚いた!


 裏から声がしたので振り返ると、先ほどのエルフがあきれた表情で立っていた。──つ、着いてきてたのか……エルフの男。物静かで全然気づかなかったぞ?


「い、いまはそれどころではなかろう! ダイロン、敵襲の遭った場所はどこじゃ!」


 ダイロンと呼ばれたエルフが、指を指す方を俺達は見た。


「……また、厄介な来訪者じゃの」


 逆光の中、黒い巨大な影が木々をなぎ倒しながらも、この集落に真っ直ぐと向かい歩いてきている。

 俺とハーモニーは、余りにも思いがけない魔物に言葉を失い、その場で呆然としてしまった。

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