第221話 鞘鳴り
「……まったく、悪い冗談みたいだな」
開かれた扉の先には、体育館のような……。いや、どちらかと言うと剣道場が存在していたのだ。
床はフローリングで、まるでワックスがかけられているかの様に輝いている。そして壁には、数多くの剣が置かれていた。
部屋の中央にはハーモニーの姿と、ティアに全く引けを取らない絶世のエルフ美女が、正座のままこちらを見ているのだ。
「あ、やっときましたね~? 遅いですよ、こ……」
「──やはり、ぬしでありんしたか!」
美女は、ハーモニーの言葉を遮るかのように声を上げた。──ぬしって、俺の事……何だよな?
背後の扉もいつの間にか閉められているため、その場には俺意外に該当しそうな人は見当たらない……。って事は、まず間違いないか?
「えっと……何処かで、お会いしましたか?」
俺の言葉を聞き、目の前の美女の視線が厳しいものへと変わった……。
どうやら、地雷を踏んだようだ。異世界なのにその辺に埋めておくのはやめてもらいたい。
「……そう言う冗談はよしておくんなまし」
美女は立ち上がり、俺に向かって歩き距離を詰めてきた。──この人……着物を身に付けているのか? それに目に違和感が……。
着物の美女は、瞳に色を宿していない。視点も、しっかり合わない所から察するに、目が見えていないのだろう。
「……どうじゃ? これ程に近づいても、わっちの事が分かりんせんかい?」
「え~っと、はい。初対面……ですよね?」
全く見に覚えがないぞ? これだけの美女だ、今まで会ったことがあれば、忘れる訳もない。
「ほう、そうかそうか……」
残念そうな声を上げ、部屋の壁まで歩いて行く。
そして彼女は、壁にかかっているうちの二振りの剣を手に取り、そのうちの一本を俺に向かい投げてきた。
「ちょ、ちょっと、危ないですって!」
重い!? 受け取った剣は模造品じゃない……。
渡されたのは間違いなく、殺すための道具だ。
「何を呆けておる。……怪我することになりんすよ?」
手元の剣から前を向き視界を戻すと、着物の美女は剣を鞘から抜き、振りかぶっていたのだ──!
「──ぬしが思い出せぬなら、わっちが……思い出させてやりんす!」
「おわっっっ!」
間一髪だった……忠告が無く、そのまま考え込んでいたら、本当に斬られていたかもしれない!
俺が自身の足を半歩引いたため、偶然に避けることが出来ただけだったのである。
「な、何するんだよ! 当たったら死ぬぞ!」
「
次々と振るわれる剣撃を、俺は辛うじて避けていく。
彼女の攻撃は、早いとは言い難い。
しかし、一撃一撃に全く無駄がない、実戦で身に付けた剣……と言うよりも、まるで剣の型を何百、何千、何万回も振り続けた……そんな感じの攻撃だ。
「落ち着いてくれよ! まず話し合おう!」
防戦一方じゃ不味い! 型と言ってもそれは決して弱いわけではない。
型を形として行って居るだけなら、実戦剣術相手には程遠いだろう……。
ただ、それが日々の
型とは相手の動きに対しての最適解の集大成、自身の一部となり状況により使い分けることが出来ればそれは型破りとなり、命に牙を剥くのだ!
「それに……この動き、何処かで見たことがある」
このまま打たせているのは不味い……。学習している?
俺は慌てる様に、着物の美女から距離を取った。
このまま攻めさせるのは危険だと思ったのだ。
「どうしたのじゃ、逃げるのみか? 全く返してこない様じゃが……そんなん、わっちの知るぬしではないのう!」
挑発……か。こうなったら何とか武器を奪って!
「さぁ、かかってくるのじゃ。……そうじゃ、わっちが面白いものを見せてやろう。はて? 名をなんと言うたか?」
着物の美女は俺から視線を反らし、何やら考え込み始めたのだ。
──隙が出来た! 今だ!
即座に距離を詰めより、相手の武器を弾き飛ばすために俺は、鞘事力一杯剣を振るった!
「──うむ、思い出したぞ……。
俺が振るった剣は、着物の美女が持ってる鞘の上を音を立て滑るように流されてしまった。
「──なっ!」
俺はこの技を知っている!? 数えきれないほど何度も経験した……。
──じいちゃんの技だ。
「ぬしよ……これで終いじゃな!」
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