第218話 食事と休息とじいちゃんと

「職人……ですか?」


 ハーモニーは、俺の言葉に不思議そうな顔をして見せた。──確かに抽象的だったかな? そうだな、分かりやすく言えば……。


「職人気質っていうのかな? 一途で、口数は多くなくて。不器用で、頭は固いところもあるけど根っ子の部分は優しくて、とても熱くて粋なんだ」


 俺は玉ねぎを弱火で茶色になるまで炒め、先ほど分けた実を投入して、更に火を加えていく。


 ハーモニーがじいちゃんの事を聞くものだから、鍋を振る手もつい軽快に動いてしまった。


「鍛冶の技術も、剣術も、火起こしとかの雑学も、全部じいちゃんに教え込まれたんだぜ? 『カナデ、知識はかならずお前の助けになる。覚えておいて損はないぞ!』ってさ」


 いくらか炒めたら水を入れ、その中に先ほど切った芯も加えた蓋をしてた。──良し、しばらく煮込もうか?


 夜空を見上げ、この世界に来てからの事を思い返した 。


 じいちゃんが残してくれたものは無銘ぐらいだと思っていたな……。

 でも違ったんだ!! 俺に教えてくれた技術も知識も、全部じいちゃんが残してくれた、掛け替えの無い宝物だったんだな。


「こんな事になるとは、想像もしなかったけど……本当に役にたってるよ。流石じいちゃんだ」


 俺が今、生きられているのもじいちゃんの教えがあってこそだ……いくら感謝しても足りないよ。


 そんなことを考えながらも、スープを長いこと煮詰め蓋を開け更に沸騰させ続ける。

 そしてその間にも、俺の口からはじいちゃんの思い出話が次々と語られていった──。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「──じいちゃんに料理させるとさ?『火が通ってれば、取りあえず食べれるわ!』っとか言うんだぜ、信じられないだろ?」


 何れだけ話しても話題が尽きない、その間にハーモニーの焼いていたトウモロコシは火が通り、俺の方のコーンスープも随分とろみが出てきた。


 俺は芯を抜き、すり鉢変りの入れ物に中身を移し残っている皮などを潰していく。──ミキサーが無いから……ここは人力だ!


 口を動かしながらも手を動かしている俺を見てか? ハーモニー突然クスクスと笑いだした。


「な、なんだよ? 急に笑い出して……」


「カナデさんが、余りにもおじいさんの事を嬉しそうに話すもんですから……つい~」


「そ、そうか……別に良いだろ?」


 この時、俺は冷静になり初めて気づいた。


 じいちゃんとの思い出話を、事細かに自分からペラペラ話していたことに……。

 何となく小っ恥ずかしい、顔が熱を持っているのを感じる。


「ふ~ん……カナデさんおじいさんの事大好だったんですね~? ちょっと妬けちゃいますね~」


「や、妬けるって何でだよ……」


 俺はスープを鍋に戻し、上からミルクを加え火にかけた。塩で味を整え、味見をする……。──普段ならコンソメやクルトン、コショウも入れるんだけど、これはこれで美味しいな。


「良し! 完成だ!」


「完成したカナ、食べるカナ!」


 完成と同時に、マジックバックからミコが顔を出した。


「なんだ、起きたのか? 相変わらずの食欲だな……」


「起きてたのは、少し前からカナ。二人がいい雰囲気だから、気を使ってただけダシ」


 ミコはとんでも発言と共に鍋に手を伸ばす。

 へ、変なこと言うからハーモニーが照れちゃっただろ! って危ない、中に落ちるから!


「こら、装ってやるから大人しくしてろって……」


 コーンスープを三人分皿に移し、ミコとハーモニーに手渡した。

 焼きトウモロコシは皮を剥き、髭を取る。表面に醤油に砂糖を加えた物を塗り、軽く直火で焼いてやる。


「これもすぐ出来るから、先に食べててくれよ。熱いから、火傷しないようにな?」


 俺が言うまでも無く、ミコがスープを口にする。

「熱いカナ、熱いカナ!」と言いながらも、ハフハフと食べる姿を見ると作った甲斐かいがあったと言うものだ。


「カナデさん、とっても美味しいですね。このスープ、今度私も作らせて貰います~……」


 ハーモニーもお気に召したようだな? ハーモニーが作るコーンスープか……楽しみだ。

 やっぱり食事は自分で作るより、誰かに作って貰いたいからな。


「作ってくれるのを楽しみにしてるよ。でも、その時は買ったトウモロコシにしてくれよ?」


 焼き上がった焼きトウモロコシも食卓に並び、俺達はつかの間の休息を楽しんだ……。


 ユニコーン達が起き次第、エルフの集落に向かう。

 待ってろよ、トゥナ! 必ず、必ず助けるからな!

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