第209話 対決、ストーキングキング2

「貴様に我が二つ名、追跡者の由縁を教えてやろう!」


 ストーキングキングはあろうことか決闘の最中、目を閉じ呪文詠唱を始めた。──こいつ……隙しか無いじゃないか。


 いつでも切れる……いつでも切れるけど、今回は目的が違う! 今回はアイツの心を折るのが目的なわけだ。

 ここで手を出しでもしたら「き、貴様! 卑怯だぞ!」何て言われるに決まっている……。


 う~ん……待つか?


「──カナデ様~チャンスです! 今にうちにボコボコにしてやってください!」


 ティ、ティア……容赦ないな! でも、そう思っているのは彼女だけじゃないらしい。野次馬からも、罵声とまでは言わないが「何でぶっ倒さねえんだよ! チャンスだろ」と声が聞こえる。


「ティア! 悪いけど、俺は全力のコイツを倒さないといけないんだ……お前の為にも!」


 俺の台詞の後に「もう~カナデ様ったら~」と顔を赤らめて、くねくねの仕草を再び……。──ど、何処か調子が悪いのだろうか?


「──殊勝しゅしょうな心がけじゃねぇか……。しかし、貴様は大きな過ちを冒した!」


 ストーキングキングの左手の上には、魔法で作られたであろう、拳骨げんこつ程の炎の塊が浮いていた。

 周囲の野次馬からは「あの炎魔法……小さいよな?」と、驚きの声も上がっている。


「──野次馬の癖にうるせぇ! 黙ってやがれ!」


 周りの声が耳に入ったらしい……小さいの、気にしてるのだろうか? 大丈夫だよ、小さくても質が大事だから。

 だから、俺が折る前に、心を折らないでくれよ?


「ち、小さいかもしれないがな? この炎は一味違うんだ! この炎はな……」


 彼の発言を聞き、一つ思い当たることがあった。──あっ。由縁とか言ってたし、察しがついたぞ?


「──もしかしてそれ……追尾性があるんだろ?」


「さ、先に言うんじゃないやい! 貴様……何でその事を知っているんだ!」


 周囲を見渡しても、先程の驚きが嘘の様だ。今回、野次馬は一切驚いている気配が全くない。

 むしろ「やっぱりかー」っとの声も聞こえる。


 それにしてもコイツ……自分の手の内を暴露ばくろって、どうしようもなくアホだな……。


「こ、この炎は、どれだけ離れていようが貴様を付け狙う! 避ける事は不可能だ! 油断が仇となったようだな!」


「あ~……もしかして、その炎を使ってティアを追い回してたのか?」


「な、なに! 流石は我がライバル……。まさか、その事にまで気づくとは!」


 う、うわ~……ストーキング用魔法かよ、なんて迷惑な。魔法も術者に似るのか……?


 ストーキングキングは右足を一歩前に出し、左手を振りかぶった。


「──喰らいやがれ! 追跡し紅蓮の炎……イグニート!」


 叫び声と共に、ストーキングキングは火球が投げた。イグニートと呼ばれる火球は真っ直ぐと俺に向かってくるのだが……。


 奴から放たれた火球は、想像を絶する遅さであった。

 野次馬の子供がそれを見て、楽しそうに並走して追い抜くほどに……。──止めたげて! ストーキングキング、泣きそうだから止めたげて!


「──よっと……」


 俺は、難なくそれを避けた。


 こうなってくると 、良いところを探すにしても、追尾性能と威力しか残っていないな……? 


 そこそこ火球は小回りが利くみたいで、四秒程に一度は回避を要求された。──でも、この程度では、驚異にはなり得ない……。


──その時だ!


「はっはっは、誰が一つと言った? 残念だがもう一つあるんだよ! 当たるまで……避け続けるがいい!」


 高笑いと共に、ストーキングキングの手からもう一つの火球が飛び出したのだ!


「二つか! 中々に……厄介だな!」


 苦戦……って言うほどでもないが、遅いながらも確実に着いてくる火球は、非常に鬱陶うっとうしい。

 避けれるからと言って疲れない訳じゃないからな。──さて、もう十分だ。心を……折りに行く!


 二つの火球を同時に避け、ただ真っ直ぐにストーキングキングに向かい走って行った。


「弱点一つ目……走ったら火球は追い付けない!」


 俺は奴の目の前まで行くと、ストーキングキングは右手に持っていたサーベルを振るい、攻撃を仕掛けてきた。


「──魔法を使っていても、俺様は動けるんだぜ!」


「弱点二つ目……魔法使用中は魔力を消費し続けてるようだな?」


 体内の魔力循環が細く、遅くなっている……。炎の玉が何もなく燃え続けているとは思えない。何らかの形で、魔力を燃料に燃えているのだろう。


「それが……なんだって言うんだよ!」


 ストーキングキングの斬撃を払いながらも、後方から来た火球を巧みに避る……。

 その鬼気迫る攻防を見てか、野次馬からの声が一層大きなものへと変わっていく。


「なんだ、分からないのか? お前より足の早い奴が走って逃げたら、その追尾性能も無駄だってことだよ!」


 言い終わると同時に、俺は反撃に転じる事にした。


 木刀を納刀し、空いた右手でストーキングキング頬を強めにぶん殴ってやった。

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