第203話 らしくない

「うぅ~、カナデさん酷いじゃないですか~人の頭をつなんて……」


 あの後、俺の後を追うように御者席に移ってきたハーモニーに、愛のこもった軽いげんこつをしたのだ。その事を根に持っているのだろう。


「いくら俺が悪いとは言え、町中でユニコーンを放ったらかしにするやつがあるか! 反省しろ、反省!」


 叩かれたはずなのに、口を尖らせながらも何処か嬉しそうだ。コイツは、本当に反省してるのだろうか?

 

「大丈夫ですよ、ちゃんと反省してます~。そんな目で見ないで下さい……。確かにさっきのは軽率でした。今度は大丈夫な様に、手を打っておきますので~」


 手を打つって。結局の所、それって離すつもりじゃないよな? まぁいい……それより今は。


「トゥナの容態はどうなんだ?」


「ん~……具合は悪そうですね。私達素人じゃ判断しかねます。お医者さんに見せた方がいいと思いますが……」


 そうだよな、どう見ても彼女の顔色は普通じゃない。医者に見て貰った方が良いよな?

 関係してるのかは分からないけど、あの時期にしてはずっと耳も生えっぱなしみたいだし……。

 とっくに時期は過ぎているはず、体力がかなり落ちてるのか?


「ハーモニー、御者席を変わってもらっていいか? 俺とティアでギルドに報告行くから、トゥナの事を頼みたい……本当は着いていてやりたいけど、こっちも早い方がいいから」


 アラウダの村の支援もそうだし、黒の装いの賊もいつどんな動きをするか分からない。

 早めに動かなければ……手遅れになったらシンシに顔向けも出来ないしな。


「確かにその方が効率的ですね……。それでは私達で、宿とお医者さんの手配は任せて下さい~」


「あぁ、俺とティアはこの町のギルドに居るから、キリが着いたら迎えを頼むよ」


 俺はハーモニーに手綱を任せて、荷台のティアに声を掛け馬車を降りた。


 ティアもトゥナが心配なのか、行くのを少し躊躇ためらったものの、彼女の「大丈夫だから、よろしくお願いします」の言葉を聞き、渋々と馬車から降りた。


「兄さん、行く前にこれ羽織ってき!」


 馬車から降りた俺に、ルームから一着の和装の上着を渡された。──これは……白い甚平?


「うちが作っといたんや。ずっと気になってたんやけど、兄さん背中ずっと破れてるで? 直したるさかい、こっちよこし」


そう言えば俺、背中斬られてたもんな?

 傷はポーションで治っても、服の破れまでは流石に無理か。


 俺はその場で元の甚平を脱ぎ、ルームに渡す。──ハーモニー、チラチラ見るのは止めて貰おうか! お子様には少々刺激が強いぞ?


「これ、お気に入りだからな? 是非頼むよ」


「任せとき、ちなみにソイツは、ワイバーンの皮膜で作っといたんや。材料がそれしかないさかい、通気性は悪いが勘弁しといて。丈夫さは折り紙つきやで!」


 また器用な事を……。

 折角の好意だ素直に頂いておこう。


「あぁ助かるよ! それじゃぁ、俺達は行くよ。トゥナの事……任せたからな」


「行ってきます。フォルトゥナ様の事、くれぐれもよろしくお願いします!」


 貰った甚平を羽織り、ティア先導の元ギルドに向かった。──それにしてもこの甚平……少々長めだな?


 歩きながら、俺は周囲を見渡した。

 それにしても、水の都市とは良く言ったものだ。町中には、行く先々に巨大な川が流れており、噴水や水遊びが出来る場所も多くの設けられている。


「綺麗な町だ……。皆で観光したかったな」


 この世界に来た当初は、こんな事を考える暇も無かったし、つい最近まではこう言った感情に戸惑いを感じてた。

 最近は受け入れる事が少しずつでき、もっと一緒に居たいとさえ思ってるな……。


 「俺、いつの間にかエルピスのメンバーに骨抜きにされてるな?」


 ……ただ、それも悪くないな。このまま皆と一緒に入れれば、特別な事なんて何も無くても──。


「──カナデ様、何か言われましたか?」


「い、いや……。何でもない」


 危ない危ない、聞かれるところだった……。流石に聞かれたら恥ずかしくて悶死もんししてしまう。


 水路をせせらぐ水と、この美しい町並みが気持ちを高揚させて、らしくない事を考えさせてるのかもな?


「トゥナ、早く元気になるといいな……」


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