第202話 キルクルスの町

「──皆さん~。キルクルスの町が見えてきましたよ!」


 アウラダ村の一件から目が覚めて丸二日、馬車の旅は滞りなく順調に進み、みんな無事に次の目的地に到着した。


 ハーモニーの声を聞き、俺達は幌から顔を覗かせる。

 強い風に目細めながらも、目の前を見ると、そこには巨大な町が見える。


「おぉ~、あれがキルクルスの町か!」


 マール港以来の大きな町。巨大な円い湖の中央に、レンガとコンクリート仕立ての建物がずらりと並ぶ町並みだ。


 この辺りは終始風が強いのだろうか?

 白とセピア色で統一されており、多くの風車が美しくも、何処か温かみのある町並みだ。

 俺は何となくそれを見て、地球のオランダを連想した。


 橋を渡り、町の中に入ろうとすると、巨大な水車が俺達を出迎えてくれた。


「見事なもんだな~……これで町の中に湖の水を引き込んでる訳か?」


「はい、カナデ様。この町は別名、水の都市とも言われています。この橋の下の湖は、山々から流れ出る湧き水が集まった物なのです。山から吹き下ろす風で風車を回し、水車で町に汲み上げる。この町のならではの光景なのですよ?」


 観光を楽しみながらも、湖を横断して町の中に入る。

 しかし、ユニコーン達は、町に入るなり相変わらず注目を浴びてしまった。

 慣れてきたとは言え、今後何かしらの対策は必要かもしれないな……。


「なぁトゥナはん、大丈夫か!? 顔が真っ青やで! 体調が悪いとちゃうんか?」


 ルームの声を聞き、トゥナの顔色を見ると明らかに顔面が蒼白だ……。──そう言えば、マール港時も体調を崩してたよな? 


「大丈夫か? トゥナ。ちょっと待てろよ?」


 鑑定眼を使い、トゥナの体を上から下まで、まじまじと、隅々まで、じっく~りと見通す……。

 しかし何故だろうか。トゥナは、腕で体を隠し逃げる様に丸まってしまった。──もしかして寒いのか?


「別段……状態異常はないみた……」


 俺が台詞を言い終わる前に、突然頬に衝撃が加わったのだ──。


「──カナデさん! そんな近くで女性をじろじろ見ないで下さい、最低です~!」


 どうやら俺は、大声で怒鳴り付けられながら、ハーモニーの平手打ちを食らったらしい。


 頬に痛みを感じながらも、言葉の意味を理解し「しまった!」とトゥナを見た。つらそうにしつつも、トゥナは若干憂いを帯びた瞳で俺を見ている……。


「ご、ごめん。少し、デリカシーに掛けてたよな……?」


 いくらかそれなりに親しいからって、あんなにまじまじ見たら誰でも恥ずかしいよな……?

 異性にあんな至近距離でって、俺はバカか!

 

 視界に入ったティアは「わ、私も……あの距離でフォルトゥナ様を凝視したことは無いのに……」とぼやいている。この人は相変わらずブレない。


「い、いいの。ちょっとドキドキしただけだから。あのねカナデ君、また体調があまり良くないみたいなの……迷惑をかけて、ごめんね?」


「い、いや。それより本当に大丈夫か? 謝罪とか全然いいから休んでろよ」


 見た感じ、大丈夫ではなさそうだな……。


 ただ鑑定眼はなんともない。もしかしてこの目では、病気は見えないのか? 状態異常は無かったぞ。


 ──っん。所でだ。俺は、誰の平手打ちを食らったんだっけ?


「もう~。カナデさんはすぐ女性をスケベな目で見るんですから、本当最低ですね~!」


 べ、別にそう言うつもりで見てたわけじゃ。


 ──って!?


「ちょっとハーモニー 手綱、手綱はどうしたんだよ!」


「オスコーンとメスコーンに任せてます! 邪な香りがしたみたいで、言うことを聞かなくなったので、まさか? っと思いまして。それにしても案の定でしたね~。本当に賢い子達です」


 そう言う問題じゃない! 幌から顔を覗かせると、思った通りかなりの注目を浴びていた……。

 それもそうだろう。馬車に繋がれているとは言え、ユニコーンが二頭町中で放し飼いな訳だ。


 俺は慌てて御者席に移り、手綱を握る。そして、愛想笑いを浮かべながら、その場から逃げるかのように町の奥へと馬車を走らせて行ったのであった。

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