第199話 シンシと名乗る聖剣の過去3
それでもシンシは、両親に会いたい一心で焼けている村の中に飛び込もうとした!
『行かないでシンシ! もしかしたら、お父さんとお母さんも逃げ延びてるかもしれない!? 今その中に飛び込んだら……絶対に会うことができなくなっちゃう』
僕の会えなくなるの一言で、なんとか彼の足を止めることが出来た。
しかし、それは──嘘だ……。
これだけ火の手の上がっている状況で、彼の両親が生き延び、その後家族が無事再開する事は、万が一にもないと思う。
それでも僕は、この場でシンシが死んじゃう……それが耐えられない。
そんな時だ──轟々と燃えさかる村の方から、馬の鳴き声と蹄の音が聞こえた。
『──あれは、シンシ隠れろ!』
シンシは慌てながらも、何とか森に身を潜めた。
すると同じくして、ラクリマ村から馬に乗った黒い装いの人達が、数名現れる。
「村の………………りま…た! 生…………はいま……ん! 」
遠くて良く聞こえない。でも、間違いない、あれが賊だろう。
あんな人達は村で見たことがない。
ここからだと良く見えないが……軽く見積もっても、十人以上は居るだろう。
シンシは飛び出すこともなく、その姿をじっと見つめていた。
賊の中の二人は兜を取り、高価な装いの黒騎士に敬礼を行う。
他の奴等は分からないが、あの二人の外見は……たぶんヒューマンだろう。
「アイツが……アイツらが村を!」
涙を流すも、彼等がその場を去るまで、シンシは目を離さなかった。
シンシの悲しみ、恨み……何もできない悔しさと、押し潰されそうなほどの恐怖の感情が、念話越しに僕に伝わる。
結局、賊が居なくなるまでシンシはその場を一歩も動けずにいた。
自分一人だと、あの人数の大人相手には、何もできないと分かってしまったのだろう。
──村の火が消えるまで、シンシは森に潜んでいた。
彼のお父さんやお母さんが生きているなら、こっちの森にいるのを知っているはず……。だから、迎えに来るのを待つべきだと、念のために僕が諭したからだ。
しばらくするものの、結局迎えは来ることが無かった……。シンシは焦げの臭いが漂う村に入り、自分の住まいへと向かった。
「お、お父さん? お母さん……ぐすっ」
シンシの家は跡形もなく焼け焦げており、その中に二人の丸焦げになった遺体が残っていた。
背丈を見るに、多分彼の両親だろう……。
「許せない。絶対……絶対にアイツらを殺してやる!」
シンシの感情が僕に流れてくる……。憎悪と悲しみで満ちた、どす黒い感情だ。
内心、シンシが無事でいることに僕はホッしていた。
ただ、シンシの心の内がわかる僕は、罪悪感に駆られた。──友達がこんなに辛い思いをしてるのに……僕は、何を安心してるんだ。
その時、僕はあの部屋で見た図面の内容を思い出した。
僕の力が十分に発揮できれば、さっきのやつらに復讐できる。シンシの心は救われる……。
──ただそれは、人の命を奪い初めて手にはいる力だ。
復讐の為に、誰かを犠牲にすることがあって良い訳がない。
『僕なら……彼らに復讐できるかもしれないヨ』
僕は困惑した。頭ではダメだと分かっているが、心の声が漏れてしまうのだ。
善と悪。二つの感情が葛藤する……こんな事を彼に伝えてはいけない!
今の彼なら、復讐のために関係ない人の命を、奪いかねないのだから。
『だからシンシは、僕を使って誰かを殺すんだ。そうしたら、死なない体が手にはいる。さっきの人達に僕が裁きを与えるよ』
こんな事、言いたくないのに……念話が止まらない。
シンシが辛いのを見てるのが嫌だからなの?
僕の心が、僕の心が弱いから、念話が制御出来ない!
「本当……なの?」
『本当だよ……だから、もう悲しまないで?』
この時、自分の弱さに心から後悔した……。
シンシの感情が流れてきて、彼が考えた事が手に取るように分かってしまった。
『──シンシ、それはダメだ! 一緒に居られなくなる!』
彼はゆっくりと立ち上がり、僕はシンシの手によって鞘から抜かれた。
『やめろ、やめろよ──シンシ!!』
彼は復讐のためにに誰かの命を奪う……そんなことは初めから視野になかった。
代価は──自らの命を捧げるつもりだったのだから。
「君に僕の体と名前を……後、命を上げるね? だから、僕の復讐を……手伝って!」
浅はかだった……。
彼がどれだけ奴等を憎み、悲しみ、落胆し、生きることに絶望していたか知っていたのに……。
僕はその後まもなく、自分の意思とは関係なく、シンシの胸をを貫いた。
彼の魔力が僕に流れ、シンシの記憶と心が僕の中で混ざり合う。
──この時、失敗作である聖剣の僕……。武器精霊のシンシが、初めて外に出ることが出来たのだった。
新しく生まれた僕は、体から剣を引き抜き村中の死体を操った。そしてマジックバックの中に納めていく……。
使い慣れていない力は思ったより魔力を消費し、その場に崩れ落ち、僕はしばらく寝ることにした。
空は曇り泣き出すかの様に、とても冷たい雨が、パラパラと降り始めた…………。
──カナデ兄ちゃん、後はお願いネ。ラクリマの悲劇を……繰り返さないで。
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