第200話 願いと対策

「ここは……どこなんだ、馬車の上?」


 意識が現実に引き戻され……。いや、どちらかと言えば夢に追いやられた様な、何とも言えない感覚だ。

 もしかして、さっきまでの夢は最後にシンシが見せたものだったのか?


「安請け合いは苦手だけど……あんな風に頼まれたら、断るわけにも行かないよな」


 夢の内容を思いだす。夢なのに……内容を鮮明に覚えている。

 シンシが伝えたかった事……黒い装いの集団を止めて、ラクリマの悲劇を繰り返さない様にして欲しいか。


 って──ミコは大丈夫か!


 あの時、一番ショックを受けていたのは間違いなくミコだ。

 俺は慌ててミコの居そうな所を探す。


 んっ、どうやら疲れてマジックバックで眠ってるみたいだ。あんな事があったわけだ、仕方ないよな……。


 俺が呟いたのに気づいたのか「カナデ君、起きたのね!」と、トゥナが顔を寄せてきた。


「あ、あぁ……おはようございます」


 す、凄い勢いだ。


 トゥナだけじゃない。ティアもルームも、その顔は心配している様子だ。


 ──すると、突如激しい揺れに襲われ、俺達は馬車の前方に転がりそうになった。

 馬車が急停止したようだ。いったい、何があったんだよ?


 その原因は、その後すぐ分かることになった。


「──カ、カナデさん! 大丈夫ですか~!」


 幌を開け、御者席からハーモニーが飛び付いてくる。

 彼女の頭部が、偶然にも俺の顎にめり込み、意識を持っていかれそうになる。

 起き上がったばかりの俺は、早速馬車の上で大の字で寝ることとなった。


「カナデさん! やっぱりまだ何処か具合が悪いんですね!? しっかりしてください、今ポーションを準備しますから~」


「だ、大丈夫だから、離してくれ……ハーモニー……死ぬ、死んじゃうから」


 俺の上に馬乗りになり、胸ぐらを掴むハーモニー。そんな彼女は、まさかの力で倒れてる俺の頭を上下に揺する。

 その度に、荷台の床に何度も頭をぶつけることになるのだ。──死ぬ……意識を持ってかれる!


「ちょい、やめときや! 兄さん、流石に死んでまうで!」


 ルームが制止するも、少し手遅れだ。俺の頭部には、既に無数のタンコブが……。──鑑定眼を使うまでもない。ポーション、誰か、俺にポーションを……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ──俺達は現状の確認を踏まえ、休憩がてら馬車の外に出ることにした。


「カ、カナデさん、本当にごめんなさい~。私、気が動転してしまって~……」


「き、気にするなよ。心配してくれたんだろ?」


 どうやら俺はシンシとの戦闘の後、過度の魔力切れの為か、それとも夢の為かは分からないが、丸っと二日ほど寝続けていたらしい。心配をかけてしまったみたいだ。


「──って、何だこれは……!」


 馬車を降りた俺の目の前には、一面晴天が広がっていた、それは文字通り一面に……。


 その原因は、広大な湖だ。

 淀みのない水面は空を写し、地上と空中の境目を曖昧にさせている。

 風が吹くことで水面が揺れ初めて、そこが空ではなく湖だと分かるのだ。


 ──こ、これは、驚くほど壮大な風景だ。


「カナデ様、この風景に驚いている様ですね? ここは普通の湖では無く、塩湖えんこになっております。この湖を境に、他国との境になってるのですよ?」


 なるほど。これが噂に聞く塩湖か、聞いたことはあったが実物は始めてみたな。

 まるで、自分が空に浮いてると錯覚しそうだ。


 ん? ってことは、馬車は湖の縁を走らせ次の目的地へと向かっているのだろうか?──その辺りも、聞いておかないとな。


 久しぶりの食事を取るため、その場で焚き火を始めた。

 寝ていたとは言え、丸二日間食べてなかった訳だ……空腹でたまらない。


 料理をハーモニーに任せ、その間に俺は寝てる間に見た夢の事を皆に話した。


「──っと言うわけなんだ。聖剣を手に入れる為に、村一つ焼き払う……。そんなヤバイやつらがこの辺りにいるはずなんだ」


 俺の話を聞き、皆が思い詰めるような顔をする……。

 きっと、シンシの事を思い出しているのだろう。


「次の目的地が何処か知らないけど、ティアさんは伝鳥でギルドとリベラティオに連絡が取れませんか? なるべくすぐ、村町に警戒をとってもらいたいんです。俺にはアイツらが……あれ以上何事もしないとは思えない」


「そうですね……。今まで通った町になら連絡が取れます、ギルドとリベラティオには私から連絡を入れておきます」


 ティアは俺達から少し離れ、伝鳥を送りに行く。──さて、その間に。


「じゃぁ、ティアさんが連絡を取っている間に、今後の予定を教えてくれないか?」

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