第198話 シンシと名乗る聖剣の過去2

『シンシ……入り口が開けれないなら、ここにいても仕方ないと思うよ……少し奥に行かない?』


 おそらく風が吹いているのだろう、空気中に含まれる微量な魔力が流れている。

 もしかしたら、他に出口があるのかもしれない。


 考えても見れば、この状況でもし彼の両親が失くなりでもしたら、入り口を開けることのできないシンシは飢えて死んでしまう。ただ閉じ込めたとは考えにくい……。


「死なないもん……お母さんお父さんは死なないもん……」


 そんなに慣れていない為か……僕の念話が漏れていたみたいだ。

 僕は彼の両親も心配だが、彼が何より心配なんだ。九つになったばかりの子に、こんな状況は辛すぎる……。


「ありがとう、大丈夫だヨ。奥に、出口があるかもしれないんだよネ? 行こうか? 僕が……お父さんとお母さんを守るんだ!」


 僕を強く握り、シンシは狭い通路を奥へと進んでいく。

 避難用の通路は、小さなトンネルになっており、所々に発光する不思議な水晶の様な石が埋まっている。

 その為、光が届かないこんな場所でも、何とか進むことが出来た。


 しばらく進むと、大きくはないが一つの部屋についた。

 家具は本棚とテーブル、椅子だけが置かれており、テーブルの上には一枚の設計図のようなものが置かれてる。

 何か使えるものがないか辺りを見回していると、その設計図が僕達の視界に入った。


 設計図には剣の絵と、こと細かい文字が記載されている……。

 その絵を見た僕は、それが何なのかを直ぐに理解できた。


『──これは……僕だ』


 設計図を良く見ると、どういう目的を持って僕が作られたか。その目的と能力が書かれていたのだ。


「……王の……物を…………力……すべく、倒…………生き……操る……。うーん……全然読めないネ……」


 神の加護が、肉体に馴染んでいない幼いヒューマンのシンシに、ドワーフとエルフの言語で書かれた書物の解読は難しかったのだろう。


 しかし僕は違う……これが読めてしまった。──僕は……魔王の力を模して作られたって事なの? 生き物を斬ることで魔力を吸い上げ、殺したものを意のままに操る力。媒介を有することで、力を発揮する。媒介とは…………。


 その事実に心が揺れ動く。

 もしかして、僕を狙ってきた奴等はその事を知っていたのだろうか!? 僕が居たからラクリマの村は……。


 って、今はそれどころじゃない。落ち着け、落ち着かないとシンシに知られてしまう……。

 こんな事を知られたら……絶交されちゃう。


「使えそうなものは無いね……先を急ごうか?」


 何とか僕の心は、シンシ知られなかったらしい。──良かった……嫌われずにすんだ。


 その後、部屋を後にしたシンシは、長い間ひたすら歩き続けた──。


 ──シンシは僕を持ったまま、どれ程歩いたのだろうか? 太陽の光が差し込まないココは、物置に居た時の様に、時の感覚を鈍らせる。


 彼の背丈に合わない僕は、彼にとって決して軽いものではないはずだ。

 しかし、彼は僕を置いていこうとはしなかった。

 優しさの為か? もしかしたら、村を襲った賊倒すために僕を振るうつもりなのかもしれない……。


「──見えたよ。明かりだ……」


 シンシは明かりを目指して歩き、無事に外にたどり着く事が出来た。そこは多くの草木に囲まれており、出入り口は完全な死角になっていた。


「ここは……村の近くの……森?」


 狭く、薄暗い道をひたすら歩いた彼は、方向を見失っている様だ。

 しかしそんな中、僕は村のある方角に直ぐ気づく事ができた。


『シンシ……裏みて。空が赤いヨ……』


 彼が振り向き見上げた空は、夕暮れのように真っ赤に染まっていた。

 チラチラと顔を出す炎が、それが夕焼けじゃない事を物語る。


「──お父さん……お母さん!!」


 シンシは走った。獣道にもなっていない森の中を、必死で走っていく。

 枝は肌を刺し、草木は足に絡む。血を流し、それでもなお、前に、前に歩みを進める。


 そして目の前には姿を現したのは、隅々まで火の手が上がるラクリマ村の姿だった……。

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