第182話 アラウダ

 俺達が乗っている馬車は現在、何故かアラウダ村の周囲をぐるぐると回っている。

 その状況に興味もあって、荷台の前から顔を出し目の前のハーモニーに話しかけた。


「なぁ? これはさっきから何をしてるんだ?」


 目の前にアラウダと呼ばれた村があるのに、一向に入ろうとしないのだ、疑問に思うのは当然だ。


「これは入り口を探しているのですよ。この鳥の巣の様な外壁の何処かに、出入りするための場所があるはずなんですが~……」


 なるほど? この巣は外壁の代わりなのか……。確かに村を一周、ぐるっと囲っている様にも見えるし、建物が見えないほどの高さもある。

 巣が村を守る……さながら、建物や人々は卵やひなみたいだな。


「ってことは、回っていれば入り口の扉か何かがあるわけだ?」


「扉は無いと思いますよ~?」


 ──無いのかよ! じゃぁ穴でも空いてるのか?

 半周以上グルグルしてるし、いい加減彼女の言う入り口が、視界に入っても良さそうなものなんだけどな?


「あ、見えてきましたよ?」


 先程まで、そこは枯れた木々で覆われていたと思っていた場所に、突如何も覆われていない部分が現れた。

 そこからは村の中が見え、入り口には数名の門番の様な男達が立っている。──驚いた、遠目で見たときは、全然こんな入り口が見えなかったのに……。


「はぁ~驚きやわ! 鳥の巣見たいな村があったんは知ってたけど、まさか入り口にこんな細工があったか。それは知らへんかったわ……興味深いで!」


 ハーモニーの隣では、ミコを頭に乗せている、シンシを膝に乗せたルームが……って重なりすぎだろ?

 そんなルームが、驚いた顔でそう口にしたのだ。


 確かに先程までは全く見えなかったのに、入り口の正面に入ったら急に見えるようになったぞ?


「目の錯覚なのか? これは凄いぞ、よく知ってたな!」


「魔法の一種ですね。私は村への入り方を偶然知っていただけです。エルフの里の方が少し複雑ですが、同じ技術を使っているんですよ~」


 なるほど。確かに俺とミコの残心の応用でも似たようなことが出来る。十分に考えられるか……。


「でも、知らない人はこの村に入れないだろ? 何でそんな不便な作りなんだよ?」


「う~ん……。憶測でしかありませんが、この村の宗教が起因しているのかも知れませんね~? この仕掛けを使っている村や町は、エルフが信じている"神様"を信仰なさっているところが大半ですから」


 うわ……めんどくさそうな単語だ。異世界系の話でその単語、大概ろくでもないんだよな?


「神様ってそんな眉唾まゆつば、本当に入るのかよ? 正直俺は、あまり信じて無いんだけど……」


「カナデさん。私なら良いですが、他のエルフには言わないで下さいよ? 私は人間の世界での生活が長く、信仰深い方ではないから良いのですが……同胞が聞いたら、蜂の巣にされますよ~?」


「わ、悪い……気を付けるよ」


 早速注意されてしまった。神様が絡むと、ろくなことがない説は間違ってなかったか。


「結論から言うと、神さんは居るで? 実際うちらも、それぞれの種族の神さんに、"加護"を頂いてるはずや」


「加護? 新しい単語だな……それは俺にもあるのか?」


「はい~、種族の違う私達とも普通に話せている。加護を持ち合わせている証拠ですね~」


 なるほど……この世界に来て読み書きに苦労しなかったのは、その加護って物のおかげか。

 普通、もっと早く気づくものな気がするけど……流石俺だ。


「カナデさん~、もう村の目の前まで来ましたよ?」


 鳥の巣……ではなく、村の入り口が目前まで近づいてきた。この村に在中している最中に、シンシの問題を解決しないといけないんだよな?


 もし、本当に世界に神様がいるのなら、俺達皆の仲を裂かないで欲しいな……。

 そんな都合のいい神頼み、やはり許されないのであろうか?

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