第183話 見つからない答え

 アラウダの入り口に近づいたので、俺はシンシに一言掛けた。

 頭の上からミコを取り上げ、マジックバックの中に入って貰うからと説明をして。


 それに対して「うん、わかったヨ! し~だよネ」と答えるシンシ。──非常に残念な話だ、シンシが一番聞き分けがいい……。


 村の入り口に差し掛かると、身分の確認のためなのか? 看守らしきエルフの男性が俺達を止めた。


「ユ、ユニコーン……。き、君達は冒険者なのか? アラウダの村に何か用かね」


 三名いる看守は、それぞれ見た目に個性がある。

 ヒューマンと呼ばれている種族の男性が一人。

 耳が長いエルフだと思われる男性が一人。

 もう一人は、少し毛深く、犬の様な耳をつけている獣人の男性の合計三人だ。

 

「最近、付近の村で大きな事件が起きてな。すまないが中に入る前に、君達の身分証を拝見したいのだが?」


 エルフの男の指示に従い、俺達はギルドカードを見えるように提示した。


 すると、俺にはヒューマンの男、ハーモニーにはエルフの男。

 耳がまだ出ているトゥナには獣人の男の様に、俺達の容姿を見て担当分けをするように、身分証をチェックしに来たのだ。


「んっ? その子供、身分を証明できるものはないのか?」


 ヒューマンの男は、シンシを指差しそう答えた。


「え~っと。この子は、ラクリマの村に居た生き残りの子で……身分書どころか、記憶もなくてですね……」


 俺は必死で説明するものの、なんて伝えたらいいものか……。


「あぁ、その子がラクリマ村の? ってことは、君達が情報提供してくれたクランか。話はギルドから聞いている、通ってくれたまへ」


 男達は「「「ようこそアウラダの村へ」」」っと、声を合わせ村に迎えてくれた。──良かった、ティアからの事前連絡が行き届いていたか。


 彼らが離れたのを確認して、ハーモニーが馬車の手綱を打つ。


 しばらく進むと「くぅ~、あのエルフのオッサン。人の顔とギルドカードを何回も確認しよってからに……。これやから、年老いたエルフは嫌いなんや」とぼやき始めた。


 どうやら、彼女を担当したのはエルフの男だったらしい。


「それはあなたが、年にふさわしくなく小さいからじゃないですか~? 誰も信じれないと思いますよ?」


 ハーモニーの言葉を聞き、チビッ子二人が口喧嘩を始めた。──ハーモニー。残念な話だけどさっきエルフの男、ハーモニーにも哀れみの視線を向けてたからな?


 村に入ると、相変わらずユニコーンが注目を集める。──最近、何だか人の目にも慣れてきたな……。慣れ、恐るべし!


 中に入ったものの、特にこれと言った変哲もない村だった。

 ごく普通の、木造建築だし……。気になる点があるとするなら、村の隅に十字架を掲げた大きな建築物があるぐらいだろうか?

 この世界にも十字架……。ってことは、もしかして教会だったりするのだろうか?


 馬車の幌から首を出す俺の背中を、誰かが指先でつつくので振り向くと、ティアがすぐ目の前に居た。


「カナデ様、ギルドへの報告は私達でしておきます。今後どうなるか分かりませんし、少しでもミコ様とシンシ様が共に居られる時を、作って差し上げてはいかがでしょうか?」


 確かにそれは嬉しい申し出だ。例え少しの時間でも一緒に居させてやりたいし、俺も解決策を思考したい。


「そうですね、気を使わせてすみません。では、そうさせて貰います。ハーモニー、悪いけど、馬車を止めてくれないか?」


 馬車は歩みを止め、俺は最初に降りた。


 その後、馬車からルームとシンシを抱っこして降ろしたら、笑顔のルームに影で足を踏まれた。

 どうやら、からかう相手タイミングを間違えたようだ。


「宿は、そこの交差点を左に曲がった突き当たりだったと思います。私達の部屋も頼んでおいてくださいね」


「分かりました。じゃぁ行こうか? ルーム、シンシ、着いてきてくれ」


 一足先に馬車を降りた俺達は、宿屋に向かい歩き出す。

 大きな村ではないため、目的地にはものの数分でたどり着いた。


 宿屋につき宿の亭主に俺は部屋を頼む、シンシと俺は同じ部屋に。他にも女性人達用の相部屋を、いくつか頼んだ。

 俺と一緒ならミコも同室だし、何より他の女性人とシンシが同じ部屋は、何となく許せなかった。──大人げないと言われても構わないしね!


 部屋に入り中を一望すると、ミコにルーム、シンシが早速、思い思いに羽を伸ばす……。


「さて、ルーム。俺達も、二人が遊んでるうちに、何か解決の糸口でも探そうか?」


 俺とルームは、皆が一緒に冒険できる様に、お互いの意見を交換し、それについて話し合い、試行錯誤した。しかし、それでも納得の行く答えには、どうしてもたどり着けない──。


「──ん~何度考えてもあかん、さっぱりやわ。空でも飛べへん限り無理やな。そうすれば負担の件も、安全面もおおよそやけど解決するんやけどな……」


「空って、何かアイディアでもあるのか!」


 そうだよ! 飛行機の様に飛べさえすれば、風で揺れることがあっても、ガタガタ道のような大きな振動が頻発ひんぱつすることもない! 魔物も、空にいる魔物だけだから、今までより遭遇率は下がる。良いことだらけじゃないか!


「いや、例えや例え。鳥や無いんやし、人が空を飛べる訳ないやろ?」


 ──彼女のその発言で、俺はこの世界で経験した悲劇を思い出した。


「兄さん……顔色悪いで? だ、大丈夫かいな?」


「あ、あぁ大丈夫だ……」


 結局、結論が出ないまま、時は無情にも過ぎていった……。


 唯一分かったことは、気づかぬ間に、俺自身に忘れられないトラウマが存在していた。ただ、それだけであった──。

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