第169話 ユグドラシルとモエニア

「私の初陣です。任せてください~!」


 それだけ言葉にすると、ハーモニーは俺が与えた武器を、鞭のようにしならせながらもトレントの幹を、次々と削っていく。


「はぁ~、あの嬢ちゃん。魔力量と魔力操作には自信あるって言うてたが、ほんま中々のもんやないか?」


「なぁルーム、あれってあんなにしなやかに動かせるものなのか? 想像以上に凄いんだが」


「いやぁ、ウチもあそこまでは想定してなかったわ~。機能は織り込んでたけど、精々伸ばして引っ込める位だと思ってたんやけどな?」


 なるほど、ハーモニーの才能ってやつなのか。あれなら自己防衛どころか、普通に戦力になるんじゃないか?


 目の前の状況にも驚いているところだが、そんな中。俺の直ぐ横にいるルームも、中々の存在感をかもし出していた。


「ところで気になるんだが、ルームが持ってるソレ、何なんだよ? 偉い重そうだな」


 彼女の両手には、二枚の大型の鉄板の様な物が握られていて、背が低いためなのか? 歩きながらソレを引きずっているのだ……。


「あぁ、これか? 見ての通り金属の板や。ウチの鍛冶屋の入り口のドアあったやろ? あれの応用品なんや」


「え~っと……。馬車の入り口につけるのは止めてくれよ? 出入りのために魔力を吸われたら、かなわないからな?」


「ちゃうちゃう! まぁ~見ときいや」


 そう言って、二枚の鉄板を引きずりながらも、ハーモニーの方に歩いていった。──あの鉄板……どんだけ重いんだよ。それを軽々と持ってるルームも凄いな。種族故の身体能力なのか?


 そんな中、ハーモニーによるユグドラシルと呼ばれたジャマダハルでの、怒濤どとうの攻撃は止むことは無かった。


 俺が作り上げた刀身は、彼女が身に付けている腕輪と光輝くロープの様なもので繋がれており、彼女が右に手を振れば右に、左に手を振れば左にと、まるで一匹の蛇のような動きを見せていた。


「たいしたものだ……でも、決め手には欠けるな」


 しかし、いくら切れ味が良いとはいえ、相手は木の塊だ。無銘程の切れ味であれば切断することも容易いだとうが、彼女に与えた武器にソコまでの切れ味はない。と言うより、今の俺の実力では無理なのだ。


「カナデ君、あなたから見て状況はどう見えるかしら、私達も援護にいった方がいいかな?」


「う~ん。トレントの足……根? は止まっているみたいだし、射程外だろ? さっきから飛び出してる根も全然届いていないようだし、このままなら大丈夫じゃないか?」


 本人も張り切ってるようだし、余計な手出しは無用だろ。

 それにルームにも、何か考えがあるみたいだし、それも見てみたい。


 トレントの幹の皮は削れ、木の地肌が見えてきている。心なしか、トレントの様子も苦しそうに……。──シミュラクラ現象だよなきっと、トレントの美女の顔が苦しんでるように見え……──見てられない!


 俺が目を離したその時「──危ないです!ハーモニー様!」と、ティアの叫び声がしたのだ。


 その声で俺は慌ててハーモニーを見ると、トレントは彼女に向かって大きな岩の塊を飛ばしたのだ。

 トレントは、ただ木の根を無意味に突き出していたわけではなく、自身が投げることができる武器を作っていたようだ!


 不意打ちを受けたハーモニーは、回避行動が間に合いそうにない。

 俺とトゥナも、突然の行動に助け入るのが遅れている……。


 ──っ、間に合わない!


 しかし、その中颯爽とハーモニーの前に立ちふさがり、彼女をかばう人影が見えた。


「──モエニア、アンカー!」


 ルームはハーモニーの前に立つと、先程手にもっていた二枚の鉄板を地面に突き立てた。

 そして、掛け声と共に地面に杭が打ち込まれる。


 彼女の行動を見て理解した。その持っていた二枚の鉄板は巨大な──盾なんだと。


「両壁展開や!」


 ルームの掛け声で、二枚の鉄板は金属が擦れる音と共に広がり、まるで金属で出来た城壁の様に、二人を囲ったのだ。


 トレントの根から放たれた岩を、ルームが持っている盾が受け止める。

 なんと一メートル程はある岩石を、平気な顔で受け止めたのだ。──どんな強度なんだよ!? いや、それよりそれを持ち運、耐えきれるルームの力。ドワーフ、半端ねぇ!


「ふぅ~、手がしびれたわ。持ち手の改良は必要やな」


 魔物の攻撃に耐えきった彼女は、ゆっくりと俺を見た。その顔は、まだまだ余裕を感じられる。そして、含みのある笑顔でこう叫んだ。


「この、おチビちゃんの弱点その二。防御、回避力やろ?」


 まったく……。流石としか言いようがないな。

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