第168話 悲劇の守り手
トゥナとティアが帰ってきて、俺達はいつものように火を灯し、夜を越す準備を始めた。
藁と拾ってきた薪に、度数の高いアルコールをかけて、火打石で火をつける。
細かい枝から、少しずつ大きな枝に火を広げていく。
その後に、火持ちの良い炭に火を移した。料理をするにも、炭の方が管理がしやすいからな。
じいちゃんも、よく木炭を使って、鍋の
──って、それどころじゃない!
「なぁ、何かおかしくないか?」
「カナデ君……何を今さら言ってるのよ」
あれ、俺が気付くのが遅かっただろうか? 他の女性陣の顔を覗くも、皆呆れ顔を見せる。
「まったくですよ、鈍感だと愛想つかされますよ~?」
「カナデ様、鈍感系主人公は今時流行らないかと……」
「「ヒヒ~ン!」」
ヒヒ~ンって、何となく言いたいことが分かったので、俺は何か言われる前にミコの口をふさいだ。──ミコのやつ余計なことばかり、通訳するからな。
マジックアイテム作りでも一区切りついたのだろうか? それとも騒がしさにつられてなのか、ルームが馬車の荷台から降りてきた。
「な、なんであんなところに木が立ってるんや! どう考えてもおかしいやろ!」
え、えぇ~……。
今まで馬車に引きこもってたルームまで直ぐ気づいたのに、ずっと外にいた俺が今気づくって。──恥ずかしい!
そんな俺の様子を見てか、ティアが急に立ち上がり「まったく、カナデ様は……」っとふいに、今までは無かった木を指差した。
「先程まで平地だったあそこに、一本の枯れた木が立っています。言うまでもないですが、あれは魔物です」
──で、ですよね……。
ティアの一言に、皆が俺を見つめる。──やめて! 皆してこっちを見ないでくれ!
「はぁ~。それでは説明を続けさせて頂きますね? あの魔物は、木樹の番人とも言われるトレントでしょう。周囲にある木々に擬態しながら、森を巡る……。おそらく私達を、森の侵入者として、品定めしている最中なのでしょうね」
「森って……」
森なんて何処にもないだろう……? この死の大地の、数少ない木々を番しているって事なのか? なんか、かわいそうに思えてくるな……。
「攻撃方法は、根や枝を伸ばしたり、実を飛ばしたりでしょうか? 見た所、実はついていなさそうですけど」
「ティアさん……残念ながら、こちらに向かって動き出したわ。侵入者として判断されたらしいわね」
トレントと言われた魔物が、非常に遅くではあるが、少しずつ……少しずつ回転しながらこちらに向かっている様だ。
──ってなんだよ、あれ!
百八十度程回転した所で、木の幹に人の姿が浮かび上がっていた。
その容姿はとても美しい、二十代程の胸から上の女性の姿が……。
「ヒヒ~ン!」
「ん~まぁ! カナデちゃん、ちょっと欲情してるじゃないの! って言ってるカナ」
「し、してねぇよ! ミコ、余計な通訳しなくていいから!」
メンバーの軽蔑の視線が俺に注がれる……。その時だ──!
「──いけぇ~、ユグドラシル~!」
ハーモニーは、右手に持っていたジャマダハルを、突く仕草をしながら叫びをあげた。
すると、十メートル近く、離れているであろうトレントに向かって、その切っ先がとてつもない速度で飛んで行く。
その刃は魔物の幹に当たり、トレントの体をたやすく削り取ったのだ。
護身用にと考えていたが、想像以上の結果だ……。
ハーモニーの為に作ったジャマダハル。そのマジックアイテムの効果は、射出と操作、それと回収だ。
運動能力のない彼女に近接戦闘は危険と判断した。
その結果、アウラウネが分体を操作していたように、ジャマダハルを操作する事をルームが思い付いたのだ。
その末、かつてない遠距離武器を生み出すことに成功した。
──それにしても……。
「う~ん。少し硬いせいか浅かったですね~……」
「おい。さっきの話を聞いて、思う事とかないのか? 容赦なく先制を浴びせるって……」
俺の発言に「さっきの話を聞かれて~、鼻の下を伸ばしてる人に言われたくありませんね~?」と、逆に説教を受ける事に。──ごもっともです……。
「カナデ君、ハーモニーの行動は正解よ? 一度目をつけられた以上、あいつのテリトリーにいる間は襲われ続けるわ。それでは今晩、野営が出来ないもの」
「フォルトゥナ様の言う通りです。トレントの一撃は岩をも砕くと言いますからね? 彼らの射程に入る前に、射程外から攻撃するのがセオリーです。よって、私の魔法かハーモニー様の遠距離による攻撃が一番得策かと」
それだけ口にすると、ティアが不意に炭をトングで掴み、それを魔物に向かってほおって見せた。
四メートル程。飛んで行ったそれは、激しい音と共に、地中から突如飛び出してきた木の根により、木っ端みじんに砕かれたのだ。
「火も嫌いませんね……。リーチも体の大きさと同等。中々大物のトレントの様ですね、彼の射程に入らないように十分に気を付けてください。地中からの攻撃は目には見えませんので」
トレントの攻撃力を目の前で見せつけられ、俺達に緊張が走ることになったのだ。
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