第167話 嵩増し
クレーターの
周囲を見渡すと、青々とした草木は一切ない……。
枯れた木々が一つ、また一つと、所々にそびえているのみだ。
中には倒れ、地面に埋まっているものさえもある。
「なんか……寂しい土地だな?」
思ったことを素直に口にした。俺の視界には、ソコが死んだ土地のように映ったのだ。
「カナデ様の、その認識は間違っていないかもしれませんね……。ここは、過去の戦場の一つになった場所なのです。数百年立っても、争いの傷痕はこうして残っているのですね……」
なるほど……。もしかしたら、ここも昔は木々が生い茂っていたのかもしれないな? あの湖があった森みたいに。
「争いって確か、勇者と魔王の戦いだよな? 200年ほど前にあったって言う。海上の時も驚いたけど、どれだけ環境破壊してるんだよ……。世界に爪痕残しすぎだろ?」
「あ~いいえ、これはそのもう少しだけ前の……四種族間戦争の名残ですね。この光景は人々の争いによって生まれた結果です」
これを人の手が? いや、何も驚くことは無いか……魔法もある世界だ、十分に考えられる。
「皮肉なものですよね。魔王が現れなかったら、もっと広い規模でこのような景色になっていたのですから……」
周りの景色を、目を細めてティアは眺めた。
争いで世界を痛める。この世界の人もなのか……。
種族同士の思想の違いによる戦争だったのだろうか? いや、理由は別に興味はない。
ただ生きることを目的としない争い、食べるためでもなく殺し合い、多くのものを壊していく。
しかもそれは、勝ちか敗けが決まるまで……。俺にはその気持ちが分からないな。
──もし、魔王が現れていなければ?
「共通の敵の登場で戦争が収まったってことか……そういう意味じゃ、結果的に魔王は世界を救った事になるのか?」
「──カナデ君、ダメよ? それはタブーだわ……。例え魔王が結果戦争を止める理由になったとしても、彼が殺した人は数えきれないのよ?」
俺の発言は事実だったのかもしれない。しかし、トゥナが口にするように、人が殺され作られた平和が正しいわけがない。
殺された人を大切に思っていた人達には、心からの平和は、もう二度と訪れないもだから。──確かに、軽率な発言だったかもな……。
「そうだよな……ゴメン」
「いいのよ。ただ、カナデ君が口にしたような思想の持ち主達は実際にいるの。それは、どの国でも問題視されてるから、注意した方が良いわ」
魔王信者ってやつなのだろうか、そもそも魔王の定義ってなんだ?
俺の時もそうだったが、勇者はなんのために召喚されたのだろうか……。
種族間の戦争の最中、魔王は何処にいたんだ……。
「フォルトゥナ様、カナデ様。暗い話はこれぐらいにして、野宿の準備をなされた方がよろしいかと。ずいぶん日が落ちてきてるので」
「あ、あぁ~そうだな」
考えていても仕方ないか? 今は、今するべき事を優先だな。
「カナデ君、見通しも良さそうだし、あの辺りはどうかしら?」
十時の方角を見ると、目の前には夜営をするだけなら、十分過ぎる広さの広場がある。まるで意図的に広げられたように綺麗な広場だ。──ここを通った冒険者がやったのだろうか? ちょうどいいか。
「確かにいい感じだ、あそこにしようか?」
俺は綱引き、馬車のブレーキを掛けた。ユニコーン達も疲れたのか、今回は俺の指示に素直にしたがってくれた。
広場に着くなり「私とティアさんは薪拾いに行くわね?」と、その場を離れる二人。──じゃぁ俺は、二頭のハーネスを外そうか?
俺は二頭の前に行き、馬車用の胸引きハーネスを外そうとするが、必死にそれを拒むオスコーン。──こいつ、メスコーンから離れたくないからって!
「オスコーン、暴れるな。危ないから!」
このままでは、オスコーンの力が強く外そうにも外せないな……。
その後ろで「早く私を助けて?」みたいな瞳で見つめるメスコーンが鬱陶しくてならない。
「カナデさん~何やってるんですか。前に外し方教えましたよね~?」
器用に左手だけで外すハーモニー。
その右手にはジャマダハルが、大切そうに握られたままだ。
大人しくハーネスを外されながらも、ハーモニーの右手を凝視するオスコーン……。──若干脂汗が出てないか? 心を読めるユニコーンの事だ……ハーモニーの心に恐怖でもしたのだろうか?
「ハ、ハーモニー。やっと降りてきたのか、ルームはどうしたんだ?」
「遅れましてすみません、色々ありまして……。彼女なら、馬車の中でマジックアイテムを作ってますよ~?」
馬車の中でって、かなり揺れていただろうに器用だな……。
「所で、どんなマジックアイテムなんだ? 作り方とか、色々興味あるんだけど」
分かりやすく顔を背けるハーモニー。これは聞かない方が良かっただろうか?
「お、大きく……見えるやつです~」
あ、厚底靴って事にしておこうか?
深くは追求せず、俺は野営の準備に移るのであった。
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