第164話 戦力強化

 武器を受け取った俺は、大荷物を担いだルームと共に、仲間の待っている宿屋に帰ることにした。──思ったより時間がかかったな。


「カナデさん、ルームをよろしくお願いするかしら」


 鍛冶屋の外で、深々と頭を下げ俺達を見送ってくれているルームの母。

 その表情からは、彼女を心配をしている様子がうかがえ……。


「──おかしな事をしたら、ビシビシ! 叱ってやって欲しいかしら!」


 どうやら本当の心配は、自分のそばから離れることではならしい。ルーム自身の、性格の心配のようだ……。


「や、止めてえや! ウチの方が兄さんよりお姉さんやで、普通逆やろ?」


 そんな彼女達のやり取りは微笑ましく、少しだけ羨ましくも思えた。──やっぱり、親子っていいものだな。


「それよりおかん、おとん帰ってくるんやろ? ウチの事、上手いこと言うといてえや。それと今度は仲良くするんやで?」


 茶化すような台詞と共にルームは母に背を向け、まるで逃げるようにと遠くへ走り出した。


「まったく、落ち着きが無くて本当に困った子かしら? カナデさん……うちの子をよろしくお願いしますかしら?」


「大丈夫ですよ、俺を除けば女所帯ですし。メンバーは皆、俺よりしっかりしてますので」


 少しでも心配しないように、と言う気持ちで説明したつもりだけど、伝わっただろうか?


「兄さん~はよいくで~!」


「それでは、行ってきます。ガイアのおっさ……。ガイアさんによろしくお伝えください」


 俺は一礼だけして、ルームの荷物を持ちながらも速足で歩く追いかけた。

 先を歩く彼女は、足を止めようとも振り返ろうともしない……。


「いいのか、あんな別れ方で? しっかり、行ってきますっていった方がいいだろ?」


 そう言いながら彼女の顔を見た俺は、ふと視線を外し海を眺めた。

 彼女の頬に伝わる雫が、見えてしまったのだ。


「ええんや、グスン。湿っぽいのは……苦手やねん」


 彼女の意思で着いてきたとは言え、やはり家族と離れるのは寂しいよな?


 少し涙を流して「アッハッハ、ちょい涙腺が緩んでしもうたわ」と笑い飛ばす彼女の強さに、正直感心させられた。


 ──彼女も強い女性だと……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺達は宿屋に帰るなり、他のメンバーの部屋に向かった。

 部屋につくと、荷物をまとめているトゥナとハーモニーの姿がそこにはあった。


「おかえりなさい、カナデさん~。わ、私の武器は何処ですか~!?」


 余程楽しみにしていたのだろう、すぐさま俺のそばにすり寄ってくるハーモニー。──まるで近所の子供にたかられてる気分だ……。


「まてまて、落ち着けって。今渡すから」


 目を輝かせる彼女に、ジャマダハルとそれと対になる腕輪を手渡した。


「武器だけじゃ無くて、アクセサリーも一緒何ですか~? カナデさんからのプレゼント~……。ふふふっ」


 それらを嬉しそうに受けとる、その場でくるくると回るハーモニー。

 まるで誕生日やクリスマスにプレゼントをもらった子供の様な無邪気な笑顔だ。──作った甲斐があったってものだ。


「まだ腕輪はしたらあかんで? 後で使い方の説明したるさかい、今は危ないからやめとき」


 俺の背後から、ちょこんっとルームが顔出しハーモニーに説明ををした。先ほど渡した腕輪は、マジックアイテムの効果を発動させるキーになっているのだ。


「本当に来たんですね。ルームさん……でしたっけ? カナデさんで見えませんでしたよ」


 おい仲良くしろよ、なんで喧嘩腰なんだ……チビッ子同士だろ?


「嬢ちゃんどないしたんや、急にイライラしてないか? ずいぶんご機嫌斜めやないか……反抗期かいな?」


 ルームは含みのある笑顔で、ハーモニーに声をかけた。──これは、不味い流れだ。


「は、反抗……! 別に~ただ少しカナデさんの帰りが少し遅かったな~っと心配しただけです! 何でですかね!!」


 そう言いながらジャマダハルを握るハーモニー。──う、うん大きさはピッタリだ俺の見立ては間違っていなかった……。


「わぁ~とても綺麗な装飾ですね? 所で、カナデさんは武器を取りに行っただけでしたよね? 私、かなり焦らされちゃいましたよ~」


「……この前のワニ肉を調理しててな? 謝るから……刺さないでね?」


「刺すなんてとんでもない! 流石にこんな鋭利な刃物でカナデさんをえぐりませんよ~?」


 そ、そうだよ。考えすぎだよな? いくらなんでも知り合いを刃物で刺すとか考えるなんて、ハーモニーに失礼だったよな? 


「──ん~! おはようございます……カナデ様、お帰りになられてたんですね?」


 昨晩の格好のままのティアが、あくびをしながら布団から起き上がる。

 その姿は妖艶ようえんで、直視する事がはばかられる。──って今まで寝てたのかよ!


「ティアさん昨日は遅かったのね。何か用事があったのかしら?」


「えぇ~まぁ、用事と言えば用事でしょうか? 」


 あれ、嫌な予感がするぞ? 


「でも夜更かししてたと思えないぐらい、今日のティアさんお肌ツルツルよね? 何か良い事があったのかしら?」


 ちょっと──トゥナさん!?

 そこはそっとしておいてもいいんじゃないかな。 


「そうですね、カナデ様と……」


 それだけ言葉にするティアと目が合う。そして、俯き両手を頬に当て頬を染めるのだ。──なんでそのリアクションなんだよ……。


「──いってぇ!」


 痛みの元に視線をやると、何故かジャマダハルの先端が俺をつついていた。──自分で作った武器が一番最初に吸った血は、俺の血だったとか……。シャレにならないだろ?


 ラクリマ村への出発は、万全を期したはずなのに俺だけが、体力が減った状態での出発となるのであった。

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