第162話 カナデ……奥義!
「兄さん……おもろいおもろいとは思とったけど、食事まで体張る必要はないんやないか?」
「おい、人を芸人みたいに言うのは止めてもらおうか! そうじゃないよ、自分が奪った命を……なるべく無駄にはしたくないだけだよ」
俺はそう言いながら、ワニ肉を次々とマジックバックから取り出した。
その量を見て、彼女の笑いが引きつったものへと変わる。
ニンニク生姜を磨り、入れ物に移していく。──獣の臭が強いかもしれないな……。少し多めに入れておこう。
にんにくを磨り下ろしている時だった。
ルームを見るとこちたを指差し床にヘタりこんでいた。──どうしたのだろうか?
「に、に、に、兄さんそれは何や……? 明らかにバックの体積より多いの量の荷物を取り出してたやろ!」
あ…あぁ~。普段から当たり前の様に使ってたから忘れてたな。マジックバックは珍しいんだっけか?
「え~っと。魔法の鞄……かな? 中々便利だよな」
「あ~分かるわ。どれだけでも入る鞄があれば、置き場所にも困らへん! や、あらへんわ! そんなん、どないしたん? 容量は何れぐらい入るんや、是非分解させてくれへんか?」
おぉ~ノリ突っ込み……。久しぶりに見たな。
それにしても、分解は困るな。
ヨダレまみれになっても使うほどには愛着があるわけだし。
「一緒に旅してるときに見せてやる、でもお願いだから分解だけは勘弁してくれ……」
それ聞いた彼女は、俺に詰め寄り「ほんまか!」っと、目を輝かせている。──まるで子供みたいだな。
「くぅ~! 本当あんさん何者なんや……。まぁええわ。時間はたっぷりある、今度問いただしたるわ!」
「お手柔らかに頼むよ」
話も一区切りついた、調理に移ろう。
タコ焼き作りで使っただし汁、塩、酒、砂糖を先程の入れ物に加え混ぜ合わせる。今回は塩味ベースで調理するつもりだ。
肉を一口大に切り分け、フォークで刺したものを少しの間水に浮かべる。
十分ほど立ったら先程の準備したつけダレに移し二十分から三十分ほど置く……。
まぁ、時計が無いから完全に勘なのだが。
俺はその間に釜戸に火をくべ、油を温めるなどの準備を行った。──量も多いし、まったく……大忙しだ!
「はぁ~。思ったより器用に調理するんやな? それにコレ、ホンマにワニなん? いわれへんと分からんわ~……」
「あぁ、それには同意かな? 俺も見たとき同じことを思ったよ」
そう言いながら、片栗粉を入れ物に広げる。──少し粒子が荒い気がするが、仕方ないか?
下味をつけたワニ肉に片栗粉をまんべんなくかければ……。よし、後は揚げるだけだ!
「あかん……なんかすでにうまそうやないか……」
「まだまだ、今からが腕の見せ所だから」
油の中に衣を一滴落とした……。
衣はゆっくりと途中まで沈み、ふわっと浮かび上がってくる。──良し! 入れ時だ!
から揚げを揚げるときは、百六十度位が言いと言われている。しかし、俺はあえて百七十度を狙い、余分な片栗粉を落としワニ肉を投下した。
──ジュワ! と言う音の後にパチパチと水分が跳ねる。
肉を入れることで油の温度が下がる。それを踏まえて百六十度になるように狙ったのだ。
「あかん……うち騙されたらあかんで! あれはワニ肉や、美味しいわけ無い!」
ふっふっふ、旨そうだろ? 彼女の言う通り、これ……ワニ肉なんだよな? 自分でも捌いたものでも未だに信じられん……。
さぁ、ルーム、君はこの誘惑に勝てるか?
「よく見てろよ? 俺の本当の力、見せてやる! 力動眼──対象から揚げ!」
から揚げだけを残し、視界が色あせて行く。──見える。俺には見えるぞ! から揚げに火が通っているかが!
「な、何が起こってるんや!」
ルームが驚きの声を上げる中、俺は網を使い、中心に火が通る直前に油から、から揚げを取り出した。
そして、お皿の上に──置く!
「に、兄さん出来たんか……? っていうか油から上げただけやろ。地味やな、ほんまの実力……」
「そこはそっとしておいてくれ……デリケートな部分だ」
ルームの発言にちょっとセンチな気持ちになりながらも、釜の温度をあげていく。
再び衣を一滴垂らすと、今度は沈まず衣は水面で散った。──よし……百八十度だ!
先程揚げたから揚げを俺は睨み付けた。
一瞬のタイミングを……見極めているのだ!
「──いまだ!」
中心まで火が通ったのを確認し、先程あぶらから揚げたから揚げを、更にもう一度油に浸けたのだ。
「何や兄さん! どないしてもう一度油に入れるんや!」
知らない人が見たら驚くだろう……しかしこれは、立派な料理法の一つだ。
「奥義……二度揚げだ!」
何が俺をそうさせたのだろう……明らかにテンションがおかしい。
今思えば、それは徹夜明けでハイになっていたからだろう……。
力動眼を解除し、から揚げの表面がきれいなきつね色になったところで油から取り出す。
取り出す時は一気にすべて上げてはならない! から揚げの一部が水面に付くところで止め、油を切るように上げるのだ!
こんがり焼けた肉からは、香ばしい香りが漂い、それが俺達の鼻孔をくすぐる。
これはミコじゃなくても、ヨダレを垂らしそうになるな……。
「さぁ、御上がり!」
皿の上には、熱々のきつね色をしたワニ肉のから揚げが、無数に並べられた。
さぁルーム──口にするがいい!
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