第161話 不名誉な名
「──あぁ~……眠い!」
ティアの読み聞かせはあの後も続き、気付いた頃にはすでに日が昇っていた……。──まさか、五冊も出してくるとは思わなかったぞ……後半三冊に関してはトゥナの成長記録みたいになってたしな……。
結局一睡もできなかった俺は、ルームに注文していた武器を取りに行くため、朝早くから鍛冶屋に向かって歩いている。トゥナの容態も良さそうだったが、大事を取って出発は今日の昼からにしたのだ。
「──ふぁ~! 良く寝たカナ」
「おいミコ……外、外だから静かにしてろ!」
うちの寝坊助精霊がマジックバックから顔を出したので、俺は慌てて彼女をバックに押し込んだ……。
昨晩ミコは、ティアの読み聞かせの開始二ページでマジックバックに籠り、五ページ目には既に寝息を立てていたのだ……。──俺は一睡もできなかったのに……。いい気なものだよ。
「それにしても、ティアもティアだ。なんで寝間着で来るんだよ……」
胸元が開いてて目のやり場に困るだろ。全然頭の中に入ってこなかったぞ?
見ないように目を瞑ってたら本の角で殴られるし……。
まぁ実際は、全部を聞いてなかった訳でもないけどな?
彼女がトゥナに引かれる理由か……。思ってたより真面で少し驚いたかな?
視線を上げると、鍛冶屋の煙突からは今朝も煙が上がっている。──割と朝も早いけど……どうやら起きてるようだ。
鍛冶屋に通じる緩い坂道を上り、ソコから町並みを見下ろす。朝一でいつもほど活気はないものの、中央通りでは一人、また一人と屋台を開いて行く。──特に思い入れは無いけど、今日でこの町ともお別れか。
「考えても見れば、中々に良い町だったかもしれないな……」
なんたってこの町には──変な奴がいなかったからな!
鍛冶屋の入口に立ち俺は自動ドアに触れた。
魔力を持って行かれる感覚と共に扉が開かれた。──魔力が残ってない時とか……どうするんだろうな?
疑問を抱きつつも中に入ると、目の前にはルームとその母が作業している光景が視界に飛び込んできた。
「おはようございます」
俺の言葉を聞き、二人は俺に振り向き「兄さんやないか? おはようさん」とルームが子供の様な可愛らしい笑顔で俺に微笑んだ。
彼女らは二人で何やら話し合い、その後ルームだけが俺の元に駆け寄ってくる。
「仕事中だったろ、手を放して大丈夫か?」
「かまへんかまへん、今しがたおかんに許可とったわ! アレを取りに来たんやろ? 出来てるで」
アレ……とは、ハーモニーの為の武器の事だろう。
そう確かに今日はその為に来たんだ。ただそれとは別に……。
「あ~それもそうなんだけど、もう一つ頼みがあるんだ」
「はぁ~? 今更出来たもんは直せへんで?」
腰に手を当て、睨み付ける様に俺を見つめるルーム。
「違う違う、予定通りの品でいいよ。俺が頼みたかったのは、キッチンを貸して貰えないかなって思ってな?」
例のあれを調理したいからと、宿屋の台所をダメ元で貸してくれと頼んだら案の定使用許可が出なかったのだ。
迷惑だとは思ったが、彼女なら頼めば貸してくれるかな~……なんて思ったわけで。
俺の発言を聞き、勘違いをして不機嫌そうになっていた顔が徐々に緩んでいく。
「ぷっ……ぷっぷっぷ……。あかん! あまり笑わせんといてや!」
彼女は突然、腹を抱えて笑い始めたのだ。
「なんやあんさん? 鍛冶場荒らしの次は台所荒らしかいな? ほんまおもろいやっちゃな~。くっくっく」
喜んでもらえて何よりだよ……。あれ? これまた、不名誉な二つ名が増えるんじゃないか?
「やっぱりだめか?」
まぁ~突然客が現れて、台所貸してくれなんて言われたら普通困惑するよな? ダメなら諦めて、別の方法を考えないといけないな。
「ええんやないか? おかんに聞いてみるわ」
いいのかよ! 頼んでなんだけど結構無茶言ってるぜ? まぁ、助かるけどな。
「おかん~! 兄さんが台所借りたい言ってるで、ええか?」
ルームの言葉を聞き、頭の上で手で丸サインを出し「いいかしら~!」と返事を返すルームママ。
さ、流石ガイアのおっさんの奥さんだな。頑固な職人の妻だけあって寛大だ……。
「所で台所で何する気なんや。料理でもするのかいな? その顔で?」
おい! 顔は関係ないだろ顔は!
こちとら、じいちゃん料理しなかったから幼い頃から包丁握ってるんだよ! ってそれじゃぁ鍛冶屋じゃなくて料理人みたいだな……。
「非常に残念ながら、この顔でも料理をするんだよ。食べれる程度のものは作れるぞ?」
そして冒険中、俺の料理を彼女も食べるんだよ。驚くのが楽しみだぜ、絶対に美味しいって言わせてやる!
「所で何を作るんや? わざわざ人様の家で台所で借りて?」
「あぁ~……ワニ肉料理?」
俺の発言を聞き、目を丸くしたと思ったら、彼女は腹を抱え笑いながら、その場にしゃがみ込んだのであった……。──あれ?
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