第159話 ティア過去話─ティア視点─

「な、なぁ? やっぱり聞かないとだめなのか?」


 私は目の前の、若干目付きが悪い黒髪短髪の男性にお話を聞かせるべく、日没に彼の部屋にお邪魔することにしました。


「何か不服なんですか? 私みたいな美女にお話を読み聞かせてもらえるのですよ? カナデ様は、むしろ光栄に思うべきです」


 私はそう言いながら、胸を張りました。──正直、少し強引だとは思いますが……私とフォルトゥナ様の馴れ初めを聞いてくれるのはカナデ様だけですからね……。


 若干嫌そうな空気をかもち出しているカナデ様も、流石にこのお涙ちょうだいのお話を聞けば食いついてくるはずです!


 謎の自信に後押しされ、私は一冊の部厚い本をカナデ様に見せるよう広げました。


 カナデ様は覚悟を決めたように「はぁ~……分かったよ。手短にな?」と口にしました。


「無理です!」と一言だけ口にし、私は本を朗読し始めました。


「彼女は覚えていないとは思いますが……。この話は私ティアと、フォルトゥナ様が初めての出会った時の話です」っと──。


 ──私の父はヒューマン、母はエルフの里に住むエルフでした。

 二人がどんな出会いをしたのかは分かりません。しかしそんな男女は、エルフの里で禁じられている別種族との交際。そう、禁断の恋に堕ちてしまったのです……。


 純血を重んじるエルフは、当然のように父と母の仲を裂きました。


 その為、父は消息を絶ち……今では生きているかもわかりません。

 しかし、その時には既に、母は私を身ごもっていたのです。


 妊娠に気づいた母は「ここではこの子を産めない……」と里を抜け出しました。


 里から離れ、とても小さな名前もない村で私を産み、そして二人で幸せに暮らしていたのです。


 そして、私が十二歳になった頃でしょうか? 何処から聞き付けたのか分かりませんが、里から何人かのエルフが村に来て、母を無理やり連れ帰ってしまったのです。


「まって──ママを連れていかないで!」


 私の声を聞き入れてくれる訳はありませんでした……。彼等にとって、私は忌むべき存在そのものだったのですから。


 それまでハーフだった事を隠しながら村で生活していた私は、混血と罵られその村から追い出されました……。


 私は、自分が平穏に生活できる場所を探しました。

『母とまた会いたい……』子供ながらに、そんな希望は捨てていたのでしょうね……。


 この時の私は、既に魔法は使えましたが、力は弱く、体力もある方ではありませんでした。

 生きるために必死にった私は、情報屋まがいの仕事で辛うじて命を繋ぐことはできていたのです。

 十二歳の小娘がですよ? この時にはすでに、そう言った才があったのかもしれませんね。


 どこで聞いたかは覚えていませんが、中立国の話を聞き、幼い身ながらも私はリベラティオ国に向かいました。


 リベラティオまでの道中は必死でした……。


 魔物から逃げ、泥水をすするように生きていきました……。

 そして徐々に知識を蓄え、魔物から逃げるすべ、生きる為の術を身に付けながらも、何とか無事にリベラティオに着くことが出来たのです。


 中立国は確かに存在しました。しかしそれは、人類の枠組みの中だけの中立。

 打ちひしがれました……混血ハーフは、人類として見られていなかったのです。


 私の居場所は無かった──そう諦めたときです!


 こんな私にも、奇跡とも呼ばれる出会いが訪れたのです! それは現在の上司との出合い……。


 具体的には、私がふと一枚の紙を落とし……それを彼が拾ったのです。

 紙の中身は、私が生きるために書き記していた記録でした。

 魔物の生体、どの草が食べることができ、何に毒があるか……。そして人々の悪い噂なども、それには書いてあったのです。


 一般の方が見れば、それは子供の落書き程度に思ったのでしょう。

 しかし、彼は私の肩を叩き「お嬢さんは、ギルドの職員に成るために生まれてきた様な子だね? 私の元で働かないかい?」と声をかけたのです──。


 私は本をめくり終え、一呼吸つきました。本の読み聞かせも、中々に大変なものなのですね?


「えっと……これで一段落か? 結構長かったけど……」


 カナデ様が、逃げる前の小動物の様な顔をしていますね。普通こんな悲劇のヒロインの話を聞いたら、涙の一つでも流していいと思うのですが、ブレないですね……流石です。


 私は自身の荷物いれの中に、先程の本をしまい変わりにその本の続きの巻を出しました。


 それを見たカナデ様の顔が、険しいものに変わりました。──逃がしませんよ?


「カナデ様、まだフォルトゥナ様が出てきてませんよ?」


 私は、嬉し涙を流すカナデ様の顔を見ながら、物語の次のページをめくったのです。

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