第158話 幸せの、一つの形

 俺とティアは、宿屋に変えるなりトゥナの容態為に部屋に向かった。


「トゥナン大丈夫カナ! 気をしっかり持つシ!」


 ミコはそう口にしながらマジックバックから飛び出し、トゥナの胸元に飛び付いた。


「ボ、ボク。トゥナンの事が心配で……ギルドで出されたおやつも、五つしか喉を通らなかったシ。凄く心配だったカナ……」


 言われてみれば、いつものようにガツガツ要求してこなかったな? 確かに五つは少な……んっ~?


 ミコの頬についている、蜜菓子の食べかすを手で取りながら「大丈夫よ? ミコちゃん。もうなんともないから」と、笑顔を見せるトゥナ。


 俺は確認のためハーモニーの顔を見ると、彼女は縦に首を振る……トゥナの体調は確かにいいようだな?


「二人とも、ギルドで貰ってきた御土産だ」


 こころよく持たせてくれたお土産を彼女達の前に出すと、それをトゥナとハーモニー、ミコの三名は美味しそうに食べ始めた。──食欲もあるようだ、この様子ならまず安心だろう。


「ところで、馬車は無事に確保出来たんですか~?」


「あぁ~そうだな。説明しないといけないか」


 ギルドであったことを、俺は包み隠さず素直にトゥナとハーモニーに伝えた。そんなことをしたら、

……トゥナが黙ってはいられないことを知っていながらも──。


「──ラクリマ村の音信不通。気になるわね……」


 体を起こし、深刻そうに悩んでいるようだ。


 今回も女性陣は、大部屋を三人でシェアしているのだが、今更ながら俺がここにいても良いのだろうか?


 駄目だとは分かっていながらも、気になってしまう。なんたって──ネグリジェに身を包んだトゥナが、目の前にいるのだから!


「カナデさん……潰しますよ~?」


「──何をだよ!」


 目が完全に据わっているハーモニーの発言に、つい全力で突っ込みを入れてしまった。


「なんでだよ!」ではなく「何をだよ!」と言ってしまった辺り、自身に邪な気持ちがあったことを物語っている。


「おほんっ! ラクリマ村が気になるのは分かるけど、自分の体調が優先だ。わかってるよな?」


 正直伝えれば、トゥナは行きたいと言うだろうとは予想していた。内緒にしておいても良かったのだが……。


「フォルトゥナ様、カナデ様の言う通りですよ? 体調管理を怠った上で冒険に出るなんて、もってのほかです! それで命を落とした人を、私は何人も見ているのですから……」


 流石現役ギルド職員、言葉に重みが違う……。


「でも二人とも心配じゃないの? ほら、偵察がメインなんでしょ? 遠くから確認すれば……。ハーモニーもそう思うわよね?」


 同意を求めるように、ハーモニーに視線を送るトゥナだが。


「トゥナさんには悪いと思いますが~、私もカナデさんとティアさんに同意です。見知らぬ方達の安全確認より、目の前のトゥナさんの方が大事ですから……」


 ハーモニーの言葉を聞き、トゥナは下をうつむいた。


「みんなの気持ちは嬉しいけど……。でも……」


 ……そうだろうな。勇者に憧れている彼女が、この話を聞いて引き下がるわけがない。


「フォルトゥナ様、カナデ様が何故、正直に話したと思いますか、正直に……。きっと最初から、フォルトゥナ様の健康状態を加味した上で、皆さんで話し合うつもりなのでしょう」


 おい、バカを強調しなかったか? 二度も言ってるし。

 まぁおおむね、俺が言いたいことはティアが代弁してくれたな……。


「そう言うことだ。危険におもむくのは非常に不本意だけど、トゥナは見過ごせるわけがないもんな? 黙ってて一人で暴走されるぐらいなら、素直に話して俺もついていく。ただしそれは、体調が完璧に良くなったらだ!」


「私も、依頼が嫌な訳じゃありませんしね~」


 ティアが俺とハーモニーの顔を見て笑いながら「それでは、決まりですね?」と扉ドアノブに手を触れた。


「私はギルドに戻って、この事をアモル様に伝えてきます」


 扉を開け颯爽と部屋を出ていくティア。──出来る方のティアか……。仕事が早い。


 俺はトゥナに向き直り、どこか嬉しそうにしている彼女の瞳を見つめた。


「再確認しておくけど、依頼は完璧に体調が良くなったらだからな、嘘はダメだぞ? 鑑定で体の隅々まで調べてやるからな?」


 腕を組み、怒っているかの様な仕草を取り彼女の身を案じた。──正義感が強いのは良いけど、本当に心配しているんだからな?


「カナデさんの今の言葉、他意があるとは思いますが一応忠告です。発言が変態ですよ~?」

 

「──って『あると思います』かよ! 普通、『無いと思いますが』って言うところだろ?」


 それを聞いていたのか、トゥナとミコが二人して「クスクス」っと声を上げ笑った。


「カナデ君、ハーモニー、ありがとう。私、今とても幸せだわ」


 彼女の一言で、俺とハーモニーも顔を見合わせ、声を出して笑い始めた。

 お互いを想い合い、笑顔になれる。確かに幸せって、こんなに些細なやり取りも一つの形なのかもしれないな?

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