第150話 ユニコーン確保?

「カナデ様、大丈夫ですか!」


 ユニコーンの角は俺の胴体を貫き、貫通している……様に見えるかもしれないな?

 その実、二頭の角は身体を貫いている訳では無く、脇の下に抱え押さえつけている状態だ。


「だ、大丈夫……刺された訳じゃないから……」


 一頭目のユニコーンは、恐らく元々刺す気は無かったのだろう。

 完全な不意打ちだったが、俺は刺されていない。

 しかし、二頭目の左に抱えてるユニコーンは別だ……明らかに俺を串刺しに来ていた。

 少し身体をそらし、何とか難を逃れたのだが、今も全力で暴れている。


「カナデさん大丈夫ですか~!」


 ユニコーンの後を追ってくるように、三人が心配そうな顔をしながら俺達の元に走ってきた。


「大丈夫、大丈夫だから……!」


 大丈夫だから早く助けてほしい! 右のユニコーンは顔を横っ腹にグリグリと押し付けてくるし、左のユニコーンは振りほどこうと暴れているのだ。──これは、離したら殺られる奴だ……。


「カナデ君凄いのね……私達触らせてもくれなかったのに……」


 いやいや! もしかしてじゃれてると思ってるの? 違うから、一頭は確実に俺を殺ろうとしてるから!


「な、なんか……女として複雑な気分です~」


「そのお気持ちは分かりますね。カナデ様が、一番清らかな乙女ってことなんでしょうか?」


 見るからに落ち込んでいる様子のハーモニーとティア。──どんな勘違いしてるんだよ! まさか、辛抱たまらん! っとでも言ってる思ってるのか?


「ミ、ミコ、説得! 説得を頼むよ!」


 しかし何故だろうか? 俺の頼みにミコは露骨に嫌そうな顔をした。


「な、なぁ? 頼むよミコ。このままだと社会的にも肉体的にも……死んでしまう!」


「え~、正直気が進まないシ。世の中には知らないことが幸せだって事もあると思うカナ……」


 何でこんなときに世の中を語るよ! ちょっと……手が、手が痺れてきた!


 ──あぁ~もう! 背に腹は代えられない!


「ミコ、後で腹一杯食わせてやる!」

「──任せるカナ!!」


 食いぎみかよ! 目の前の小さな精霊様は大変やる気を出したようだ。──チョロすぎる。何だろう、このやるせない気持ちは……。


 ミコは深い深呼吸の後、メンバー皆に聞こえる声で、ユニコーンの台詞を通訳した。


「うんまぁ~いい男! この清らかでかぐわしい香り。最高だわ!」


 台詞を……通訳? したのだ。


「ハニー、こんな並みなヤツの何処がいいんだ! くそぉ! 俺の女に手を出しやがって……許せねぇ!」


 三度言おう……ミコは台詞に感情を込め、迫真の演技でユニコーンの心の声を、通訳をしてくれた。──聞き間違いでは……ない? まさか本当に辛抱たまらんだったとは。


「カナデさん……到頭とうとう人だけではなく、お馬さんにまで手を出したんですね~」


 ハーモニーは身体を左右に揺らしながら、虚ろな瞳で俺を見つめる……その姿は日本の鬼を連想させた。──出してないからな! そもそも人にも出して無いだろ!


「カナデ、痴話喧嘩にボクを間に挟むの……やめてほしいカナ……」


 おい、待ってくれ。一番巻き込まれてるのは俺なんだぞ?


「流石カナデ様です! まさか新境地を開拓されるとは……」


 ティア、このタイミングで病気が出ちゃったか……先程までは比較的まともだったのに……。


「皆……ひとまず落ち着け。ツッコミが間に合わないから……」


 ミコに頼み、まず俺から見て右側のメス? のユニコーンを説得してもらった……。


 その後、そのユニコーンが左のオス? のユニコーンに「うんまぁ! この人に手を出したら、絶交だからね!」と、話したそうだ……。

 その結果、オスのユニコーンを大人しくさせることに成功した。


「とんだ目に遭ったな……結局の所、本命の交渉の件はどうなったんだ?」


 え~またカナ? っと言いたげな顔を見せるが、お腹一杯を思い出したのだろう。またも迫真の演技で「うんまぁ! もちろん、私は貴方に着いていくわ! 」といい返事が帰ってきた。


 もう一体のオスのユニコーンを見ると、見るからにご機嫌斜めだ。

 前足の蹄で、地面を削っている……。


「ミコ……何て言ってる?」


「え~っと、待つカナ。オホン! い事ハニーを騙しやがって……。当然俺様も、監視の為にハニーについていくぜ! って言ってるカナ」


 じゃぁ、何とか当初の目的は達成……って事でいいのか?


 それにしても、この世界はユニコーンまでこんななのかよ。幻想を抱くことまで許されないとは……。

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