第149話 「ごめんな?」
マンイーター・アリゲーターは、走っていく俺を見つめながら何度目かの歯軋りを始めた。──あの癖みたいなのは、警戒のあらわれのようだな? 飛び付くための距離をうかがっているようだ。
その様子を見て、今回は臆することなく俺は突っ走る。
むしろ、ここで少しでも負け腰になってしまったら、この作戦は上手く行かない。
全力で突進しながらも、俺は目を凝らした。……ギリギリのタイミングを、力動眼で──見極めるために!
俺の考えが正しければ、この瞳の効果を最大限に発揮することで、相手の動き出しを予測できるかもしれない。
そしてどうやら、その予想は的中したようだ。
熱分布画像のように映して見せる瞳は、マンイーター・アリゲーターの微妙な変化をも見極める事が出来た。
一瞬だが身体から足の先にかけて、青、緑、黄色徐々に変化していく。そして、色が赤くなるその寸前──。
「──ティア今だ!!」
大声で合図を送った。
マンイーター・アリゲーターが口を開け跳躍すると同時に、先程の空気の爆発がヤツの直ぐ頭上で起きたのだ!
あれだけの巨体を、転倒させるまでとは行かないが、浮かすことが可能な風量だ。
飛ぶつもりで動いたマンイーター・アリゲーターは、突然の魔法に踏ん張ることも出来ず、口を無理矢理閉ざす形で地面へと叩きつけられた。
「──上手く行ったみたいだな?」
その最中、駆けつけた俺は足でヤツの口を踏み押さえる。
「皆を守るために……振う!」
前屈みに抜刀の構えをとった……。
声で気づいたのか、衝撃により閉ざされていたマンイーター・アリゲーター瞳が驚きによって見開かれた。
俺の姿を見て、暴れて抜け出そうとしたのだろう。
俺の視界に映る魔物は、全身を硬直させるように色味が変わっていく……。
「──ごめんな?」
しかし、俺の抜刀術の前では目視で認識してからでは遅い。
マンイーター・アリゲーターは無銘の刃が振るわれた範囲から、大量の血を吹き出した。
力動眼を戻し、魔物の姿を覗いた。俺を見るために見開かれていた瞳からは、光が消えていくのが分かった……。
鞘を持った手で、顔に飛び散った魔物の血を拭う。
人と同じ赤い血だ。──仕方なかったとはいえ、後味がいいものではないな……。
倒したばかりの魔物は金色の瞳の中に、俺の姿を鏡のように映し出している。
それはまるで、己を殺した者を、忘れないぞ……とでも言っているかのように。
「──ふぅ~……」
鞘を腰帯に差し、無銘についている鮮血を振るい飛ばした。
拭い紙で無銘を拭い、ゆっくり鞘の中へと納めていく……。
呼吸で気持ちを落ち着かせ、命を奪った相手の最後の光景を忘れぬよう、心に焼き付けながら……。
手に残る感覚を思い出しながらつくづく思わされた。
「もう、こんな大物はごめんだな……」っと。
「──カナデ様! 上手くいったようですね!」
大きな胸を揺らしながら、俺を心配するように小走りで駆けつけ近づいてくるティア。
「大物も……悪くないかもな?」
「──何か言いましたか。カナデ様?」
まさか聞こえてるとは思わず「何でもないですよ? それよりティアさんは怪我とかしてないですか? 大丈夫ですか?」と、邪な気持ちを隠すよう、つい優しい言葉を掛けてしまった。──怪しかっただろうか?
「いえ、大丈夫です。心配には及びませんよ?」と、彼女は倒したばかりの魔物を見た。
「それにしても、カナデ様よく無事でした……心配で気が気じゃなかったのですよ?」
「あ、あぁ。すみません……」
俺は、魔物の死体に向き直り手を合わせ頭を下げた。──あのタイミングで邪な事を考えて、ごめんなさい……っと。
しかし、天罰は直ぐに自分の身に降り掛かってくることになるのだ……。
「カナデ君。危ない、避けて──!」
「──えっ?」
声が聞こえ振り返りと、右の脇腹に一撃……その後、左の脇腹にもう一撃の衝撃と痛みが走り、一瞬、呼吸が出来なくなった。
痛みの発生源に目を向けると二頭のユニコーンの頭が、俺の目と鼻の先にあったのだった……。
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